かつて習近平の下で語られた民主と台湾融合発展 台湾との統一へ中国が掲げる融合発展の源流

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自分たちの生活圏で、実際に大規模な戦闘が起こる可能性に直面する中、福建省政府華僑事務弁公室の高級幹部で、同省社会科学院の副院長も務めた人物は、2003年12月に発表した文章において、「台湾海峡情勢に重大な変化が現れ、台湾が独立を宣言するという直接的な挑戦に直面した」ときには、中国側の武力攻撃に代わりうる選択肢として「『台湾特区政府』を組織、成立させる」ことを提案した。

当該の政府が祖国復帰を宣言するという基礎のうえに、「台湾特区政府」を金門または馬祖に設置し、かつ〔金門と馬祖の〕両地に対する管轄権を行使することは完全に可能である。しかるのちに、台湾人ビジネスパーソンの経営する大陸所在の企業と各界人士の一部、さらには、東南アジアと香港・マカオ地区に所在し、わが方と経済協力の基盤を有する台湾資本企業と各界人士の一部の支持と賛同を獲得し、ひいてはその管轄を受け入れるように努めることも可能である。

中国が民主改革して呼応する融合案

A案とB案はともに中国主導の「融合」だといえる。一方で福建省側でもごく少数の識者は、中台統一への支持獲得の契機として台湾の自由と民主主義に着目した。C案は台湾の自由民主主義の成熟に対する中国の民主改革の応答で、言い換えればそれは平時における台湾主導の(部分的な)政治的融合の可能性であった。

福建省社会科学院現代台湾研究所に所属するあるベテラン研究者は、福建省党委員会の内部発行雑誌に1999年1月と9月に寄せた2篇の文章において、総統直接選挙に基づく台湾市民の民主的意識の定着、国民党と民進党による二大政党制の確立など、「台湾の『政党政治』がいままさに成熟に向かっている」ことを指摘した。そのうえで、台湾社会の長期的方向性として、①本省人と外省人のアイデンティティ対立を意味する「省籍矛盾」の摩滅、②中国アイデンティティの希薄化、③それらに代わる市民的アイデンティティ(civic identity)の拡大を予測した。

(1998年12月の台北市長選挙で、外省人でありながら「台湾人」を強調した馬英九が現職の陳水扁に勝利したことにみられるとおり:筆者補註)今後、特殊な外部の誘因を除けば、2000年の「総統」選挙を含め、台湾の重要な選挙では、基本的に、統一/独立意識と省籍感情への訴えかけは必ずや大いに低下していくであろう。
過去数回の民意調査が明らかにしたところによれば、台湾人民の間で、自分は中国人であると考える割合が低下し、自分は台湾人であると考える割合が上昇している。……台湾人民のアイデンティティ意識は、いままさに中国人から台湾人へと次第に変化している。……彼らは、次のように考えるようになるかもしれない。西側の宣揚する民主・自主・人権だけが普遍的価値をもち、この価値に合致する統一だけが受け入れられるのだ、と。

こうした見解に基づき、驚くべきことにこの人物は、中国共産党の体制内エリートでありながら、民主化完成後の台湾市民に対する中台統一への支持獲得に向けて、中国側も台湾のcivic identityに寄り添い、中国の実情に即した民主改革の必要性を呼びかけたのである。

将来の台湾の指導者は、両岸関係において(中華民国の:筆者補註)「主権」保持の訴えを堅持するであろう。同時に「民主統一」は、台湾当局が「一国二制度」を拒絶する重要な手段になるであろう。海峡両岸の政治体制の違いは、台湾民衆が統一を支持するうえで非常に大きな障碍になるであろう。
祖国大陸についていえば、台湾のような西側の政党交代の政治の道を歩むことは決してできないが、しかし同時に、台湾の政党政治が台湾民衆によって賛同と支持を与えられ、台湾政治の民主化の成果と考えられている点を直視しなければならない。
それゆえ、台湾の選挙の種々の弊害を批判するだけでは、台湾民衆の支持を勝ち取るにはまったく不十分であり、祖国大陸もまた積極・穏当・慎重に政治改革の工作を進め、社会主義民主の優越性を示さなければならない。
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