「人手不足」は本当か?データからわかる現実とは 労働市場に低待遇で舞い戻ってくる人々の存在
かつて「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」と論じられた。いま、賃上げは起きたが実質賃金が上がらない。「人手不足」のほうを疑ったほうがいい。
現在、日本の労働市場に対する支配的な見方は、「少子高齢化で労働供給が不十分なところに企業からの労働需要が旺盛になってきた結果、実質賃金が上昇する環境が整ってきた」というものであろう。
「物価と賃金の好循環」という政策主張も、労働市場が超過需要で「人手不足」に陥っているという情勢判断に支えられているところがある。
しかし、一般職業紹介状況や労働力調査といった労働統計を注意深く観察すると、まったく正反対の姿が浮かび上がる。
「人手不足」の実感にそぐわない統計
あらかじめ結論をまとめてみると、新型コロナ禍以降、失業プール(統計上、調査期間の過去1週間にハローワークなどを通じて求職活動をした失業者)への失業者の流入が拡大するとともに、求職者に対する求人数は鈍ってきている。その結果、有効求人倍率は、2023年初から低下に転じた。失業率も、2022年半ば以降、底を打った。
それでも失業率が大きく上昇しなかったのは、求人と求職のマッチングが向上したからではなく、失業者がよりいっそう非労働力化したためである。後述するように、有効な労働力が一時的に非労働力化して潜在化してきた。
求職者数に対する求人数を表す有効求人倍率は、2019年に1.5倍を超えていたものが、新型コロナ禍によって2020年後半から2021年前半には1倍をわずかに超える水準まで低下した。その後、有効求人倍率は上昇してきた。
しかし、2023年初には、新型コロナ禍以前の水準を回復することなく、再び低下に転じた。
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