実はジリ貧「養命酒」が密かに抱えてきた"課題" 強すぎるブランド力ゆえ「味への誤解」があった

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2階にレストラン、1階にベーカリー&カフェとショップを備えた複合施設で、「おいしい、たのしい、すこやか」な商品と体験を提供する店として始まった。注目すべきは、ショップには養命酒や関連商品を並べているものの、あえて養命酒製造という名前を表に出さなかったことだ。

複合施設「くらすわ」は、養命酒の既存イメージから完全に独立し、新しい価値提案を実現するための足がかり的存在だった。

くらすわ諏訪本店
2010年、長野県諏訪市に誕生した複合施設「くらすわ諏訪本店」(写真提供:養命酒製造)

さらに、出店には、より大きな意味合いがあった。それまでメーカーとして卸売中心のビジネスを展開してきた養命酒製造が、初めて本格的にB to Cビジネスに参入するきっかけとなったのだ。

この挑戦は、後に組織にも大きな変化をもたらすことになる。伝統的な製造業の文化を持つ養命酒製造にとって、小売業への参入は、顧客の生の声を聞き、ニーズを把握し、すばやく商品開発に反映させる。そんなビジネスモデルへの一歩だったのである。

それは時として困難を伴ったが、新しい企業文化を醸成する重要な契機となった。詳細は後編に記載したい。

くらすわ諏訪本店
「くらすわ諏訪本店」1階のショップ。ベーカリー&カフェが併設されている(写真提供:養命酒製造)

地元では人気スポットに成長

くらすわに話を戻そう。同施設は開業から8年後の2018年、年間36万人が訪れる人気スポットへと成長した。これを受けて、同社の経営陣、社員からは、こんな声が上がったという。

「市場にただ商品や資金を投入しても、買ってくださる時代ではなくなった。お客様に直接商品やサービスを提供する、ダイレクト事業を並行して進めたほうがいいんじゃないか」「お客様に直接触れ、購買心理を知ることで勉強になるんじゃないか」

このとき、消費者と直接つながるくらすわを、第二の柱となるブランドとして育成する方針が定まった。

くらすわ諏訪本店
「くらすわ諏訪本店」2階レストラン。目の前には、雄大な諏訪湖の風景が広がる(写真提供:養命酒製造)

後編ー実は売上減少の「養命酒」が狙う"起死回生"の秘策 新規事業の名は「くらすわ」…って一体それなに?では、養命酒という看板を外して赤字覚悟で始めた新規事業が、どのように組織を変えていったのか。老舗企業が抱える「安定感」と「イメージ」という重荷を、どう克服したのか。新旧の価値観の統合から生まれた、独自の成長戦略に迫る。

笹間 聖子 フリーライター・編集者

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ささま・せいこ / Seiko Sasama

フリーライター、時々編集者。おもなジャンルはホテルビジネス、幼児教育、企業ストーリー。編集プロダクション2社を経て2019年に独立。ホテル業界専門誌で16年間執筆を続けており、ホテルと経営者の取材経験多数。「週刊ホテルレストラン」「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」「FQ Kids」などで執筆。企業のnote発信サポーター、ブックライターとしても活動。大阪在住。

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