コロナで大赤字「H.I.S.」牽引する成長事業の正体 あの「変なホテル」が利益を生む事業に成長
だがもちろん、コロナ禍がつらくなかったわけではない。
「これまでで一番しんどかったのは、間違いなくコロナの時代です。稼働がなく、売り上げが成り立たずで本当に苦しかった。ただそんな中でも、新規ホテルのオープンが5軒あったため、『まだこの事業を続けるのだ』というスタッフの希望につながりました」
災いの年を丸2年挟んだことを考えれば、事業の推移は順調といえるだろう。「変なホテル」は21棟まで増えており、稼働率は非公表だが、集客は非常に安定しているという。
「変わり続ける」というブランド戦略
そもそも、「変なホテル」は、どのように生まれたのだろう。
きっかけは2010年、経営が悪化したテーマパーク「ハウステンボス」が、H.I.S.の傘下に入ったことにはじまる。
H.I.S.創業者で現最高顧問の澤田秀雄氏が立て直しを図る中で、「ホテルが最も非効率だ」と、フルサービスホテルから、「世界一生産性が高い、ギネスに乗るスマートホテル」への転換を計画。フロントに人を立たせずに人件費を下げるなど、省人化、効率化のアイデアを出していった。
そのなかで誕生したのが、「変わり続けることを約束する」というブランドコンセプトだ。「ただ省人化や合理化を進めるのではなく、名前も滞在も10年後に思い出せるような、お客様がワクワクして飽きない体験が提供できるホテルを目指しました」と遠藤さん。
ブランドコンセプトを受けて、これまで建てられた21ホテルは、すべてが異なるデザイン・設備を持つ。受付ロボットも全部異なり、同じように見えても細部が違うそうだ。
この展開を支えているのが、「快適性」「つながる」「先進的」「遊び心」「生産性」という5つのコアバリュー。この価値基準に基づいて、インテリアも次々に刷新されており、現在は、フランスベッドと共同開発したオリジナルマットレスやロフテーの枕など、高品質な睡眠環境の提供に注力。ITコンテンツも更新し続けている。
と、ここまで聞くと非常に良いものに聞こえるが、サービスにおいてはいかがなものか。「ロボットによる省人化」はゲストにとってはもの珍しくとも不利益にはならないのか。そう尋ねると、意外な返答が返ってきた。
「24時間内線でスタッフにつながり、必要な時にはすぐに対応します。接客がない、無人だと思って来ても、お客様は必ずなにかしら、スタッフの対応に合う場面がある。通常は当たり前の丁寧な接客が、プラスに転じているのです」と遠藤さん。
そういえば、筆者がかつて宿泊した際にも、その言葉を実感する出来事があった。予想に反して、従業員の温かな対応に触れる機会があり、そのやりとりには、「時間に急かされていない」丁寧さと余裕が感じられた。あの余裕は、チェックインをロボットに任せ、業務を効率化しているからこそ生まれるものだろう。
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