吉岡里帆、30代で見つけた素顔と「新しい自分」 映画「正体」が描く"信じる"ことの深い問い
「もし好きになった相手が、連続殺人犯かもしれないとしたら……」その複雑で矛盾に満ちた状況を想像しながら、吉岡さんはこの役に深く向き合い、自らの演技に落とし込んでいった。
「この映画では、たとえ誰にも信じてもらえなくても『自分が見たものを信じる』という強い思いが描かれています。彼が犯人かもしれない。でも、私の知っている彼は違う、と信じたい気持ちが彼女を支えています。その思いが、葛藤や疑念、そして最終的には信頼へと変わっていく。彼を信じるために自らの痛みや恐れを超えていく、その心の変化が沙耶香の核だと感じました」
“自分の意志で生きる”ことの尊さ
吉岡さんにとって、沙耶香の「信じる」行為は役柄を超えて、自分自身への問いにもつながっているようだった。インタビューの中で、「信じることは自分を超える一歩である」という言葉があると伝えると、吉岡さんは深くうなずきながら共感を示した。
「信じるって、決して簡単なことではないですよね。誰かを信じるためには、まず自分自身に自信が必要で、その自信は日々の小さな成功や『あの時がんばった!』という経験の積み重ねから生まれるもの。その積み重ねが、相手を信じる強さに変わっていくんだと思います。
沙耶香も、彼を信じるために痛みや不安を乗り越える覚悟が必要でした。だからこそ、『自分を超える一歩』という言葉がぴったりだと感じますね」
吉岡さんが劇中で心を動かされたのは、森本慎太郎演じる和也が「お前、そんな顔してたのかよ」とつぶやく一言。その場面が強く印象に残っているという。
「このセリフは、仮面を重ね続けた鏑木が初めて“素顔”をさらけ出す瞬間に出る言葉なんです。長い逃亡生活で彼が隠してきた姿が、初めてあらわになる。それは彼が抱えてきた孤独や痛みに触れる瞬間でもあって、『そんな顔してたんだ』という言葉は、ただの印象以上に、彼の本質を受け止めるように響きました」
吉岡さんは続けて、「鏑木が命を懸けて逃走する姿を描きながら、この作品では現代社会で薄れがちな人とのつながりや、情報に翻弄される不安の中での『信頼の大切さ』が強く描かれています」と語る。
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