マタギ修行する31歳、秋田で送る「最高の移住生活」 4LDKの一軒家に1人暮らし、山で糧を得て生きる
先輩たちに何度も言われるのは、「とにかく山を歩き、山を知れ」ということ。釣りも山菜やきのこの採集も、山を知ることにつながっているという。猟期以外のシーズンはクマがどこを歩き、どこを餌場や寝床にしているか、そういう痕跡を観察しながら山を歩けと教えられた。
「師匠たちに言われるのは、釣りをするにしても考えて釣れということです。魚の習性や居場所。釣れるときと釣れないときは何が違うかとか。獲物のことを熟知したうえで、いかに工夫して授かるかを考えろ、と。これがクマを狩るときに生きてくると教えてくれました」
岡本さんの1年は山の恵みとともに過ぎていく。
春は川釣りが解禁になると、仕事の前や終わったあとに釣りに行き、イワナやヤマメを釣る。山菜は「ばっけ」と呼ぶフキノトウやこごみ。夏はほぼ釣り。秋はきのこ採り。まいたけ、なめこ、サワモダシ、ブナハリタケ、ホウキタケなど種類も豊富。松茸も採れる。
「阿仁の天然なめこは市販のものの倍以上の大きさで、味が濃くて本当においしいです。きのこ採りは夜に行くことが多いかな。通だから? いえ、阿仁では普通のことです。なぜなら昼間は仕事があるから。非常にシンプルな理由です」
なめこを缶詰工場に持ち込んで、自家用の缶詰にして保管する。これも阿仁暮らしのスタンダードだ。
冬は待ちに待った猟期。新雪にくっきり残ったクマの足跡を見つけると、心が躍る。クマ以外では山鳥やウサギを狙う。岡本さんが得意とするのは鴨だ。
暮らしの“糧”を得て生きる
阿仁ではマタギに限らず普通の家庭でも、畑で収穫する感覚で山に行き、採ってきた山菜やキノコや川魚がその日のうちに食卓に並ぶ。
日常的な自炊はできないという岡本さんだが、採れたてのきのこは友人宅に持っていき、きのこ鍋にする。鴨はさばいて香草焼きというしゃれたメニューを作る。イワナは釣ったその場でくし焼き。
秋猟で授かるクマは冬眠用に脂肪をたっぷり蓄えているので、熊鍋にすると脂肪が溶けて甘みがじわっと広がって、抜群にうまいという。
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