ボードゲームが「能力格差」を乗り越えられる理由 ダイバーシティにつながるヒントがあった

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與那覇 さらにデイケアで驚いたのは、教えあうことさえできなくても、「おかしなプレイング」をするプレイヤーを排除しないデザインがあり得るという発見でした。実際に試したものとしては、『レジスタンス アヴァロン』(以下『アヴァロン』)が挙げられます。

「人狼」系で、能力差を排除するゲーム

『レジスタンスアヴァロン』(ホビージャパン)。ミッションメンバーを投票で選ぶ、洗練された人狼系ゲーム。©︎ 2012 Indie Boards and Cards ©︎ 2012 Wargames Club Publishing Co.Ltd

小野 『レジスタンス』は人狼系、ないし「正体隠匿(いんとく)系」と呼ばれるジャンルのゲームシリーズですね。最初にひとり1枚ずつ配られるカードでゲーム内での「役割」が決まり、他人のカードは原則として覗くことができない(=相互に正体を知らない)点が特徴です。

通常の『人狼』では毎ターンにひとりずつ退場者が出るので、ルールを理解せず不可解なプレイングをする人がいた場合、迷惑がられて真っ先にゲームから除外されてしまいます。対して『レジスタンス』は退場者を出さないデザインになっており、中でも『アヴァロン』は完成度が高く、アーサー王伝説に基づく世界観も優れた人気作です。

與那覇 はい。『アヴァロン』で一番重要な役職は予言者の「マーリン」で、彼だけがプレイヤーのうち誰が「悪の陣営」(人狼に相当)なのかをすべて知っています。しかし悪の陣営の側は、誰がマーリンかを見抜けばそれだけで勝利できるルールなので、普通はゲーム中に「ぼくはマーリンなので、誰が悪かを知っています」とは名乗り出ません。

ところがルールに慣れていない場合、よく考えずに「ぼくはマーリンです」と自分で言っちゃう人が出てくる。しかしでは即ゲーム終了かというと、そうはならない。悪の陣営の側も「まさか本人が名乗り出るはずはないので、これは陽動作戦で、本当は別の人物がマーリンでは?」と思考を巡らすため、より疑心暗鬼が深まり、普段より盛り上がる展開も起き得ます(笑)。

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小野 なるほど(笑)。上級者どうしが「高度に戦略的な判断」として行うプレイングと、初心者ゆえの「ボケてしまったプレイミス」とは、意外に見分けがつかないこともあると。

與那覇 ええ。まさにそうした奇跡が起きるのが、人間どうしで遊ぶことの楽しさではないでしょうか。世の中には思考や言動が「普通の人」とはかけ離れた、俗にいう「面倒くさい人」もいるわけですが、でもそうしたノーマルでない人が混じってくれることで、かえって面白くなるゲームもあるよと。

そこに「能力の格差」をも包摂し得る、本当の意味での多様性のヒントがあると思うのです。

小野 卓也 ボードゲームジャーナリスト

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おの たくや / Takuya Ono

1973年生まれ。96年からボードゲーム情報サイトを運営し、最新情報を発信する傍ら記事執筆やルール翻訳も手掛ける。訳書に『ゲームメカニクス大全』等。東京大学大学院博士課程満期退学。文学博士。寺院住職。

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與那覇 潤 評論家

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よなは じゅん / Jun Yonaha

1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近現代史。地方公立大学准教授として教鞭をとった後、双極性障害にともなう重度のうつにより退職。2018年に自身の病気と離職の体験をつづった『知性は死なない』が話題となる。著書に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『歴史なき時代に』『平成史』ほか多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏との共著)で第19回小林秀雄賞受賞。

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