ボードゲームが「能力格差」を乗り越えられる理由 ダイバーシティにつながるヒントがあった
多様な人たちが一緒に楽しめる場とは
與那覇 ボードゲームひとつをとっても「ダイバーシティ」(多様性)の観点が求められる時代ですが、ぼくは多様性のある社会をめざす上で、最後に残る困難は「メリトクラシー」(能力主義)だと考えています。性別や肌の色で「人を差別していい」と露骨に主張する人は、近日ではまずいませんが、しかし現に「能力で差別していること」は見過ごされがちですよね。そうでなければ、大学入試も入社試験もあり得ませんから。
小野 與那覇さんと知りあったのは、2018年にご著書『知性は死なない』(現在は文春文庫)を送っていただいたのがきっかけでした。同書でもまさにその観点から、ボードゲームが持つ価値を論じておられましたね。
與那覇 ええ。そう考え出す出発点は、やはり入院とデイケアの体験でした。一口にメンタルの病気と言っても、うつ状態では沈黙して誰とも会話しなくなる半面、躁状態ないし発達障害の場合は、むしろガンガン話しかけてまくし立てたりもします。両者のあいだで「うるさい!」といった衝突も起きがちで、病気の人どうし共感しあえるのかというと、そう簡単には行かないことも多い。
だけど誰かが「このゲーム、一緒にやりませんか?」と提示することで、それは変わるんです。会話が苦手な人は「カードはどう使うんですか」のように相談しやすいトピックができるし、話し過ぎる人も話題がゲームに集中するので、会話が嚙みあいやすくなります。そしてゲームに慣れた人は「今の一手、いいですね!」のように、自然な形でポジティブな声がけをすることができる。