バリ会議で踏み出す温暖化防止の第一歩--コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス

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 この協定は”持続可能な経済発展”の確保が前提条件である。つまり「経済的、社会的な発展と貧困の撲滅は世界の最優先課題である」ということである。また同計画は、貧困国が環境に優しい技術を採用できるように、知識の移転を行うことを富裕国に求めている。

 もちろん温室効果ガスの排出量の抑制、持続的な経済発展、気候変動への順応を同時に達成できるのかどうか、大きな疑問である。現在の技術を利用するだけでは不可能である。しかし、新しい技術を開発し、それを迅速に採用するなら、可能となるだろう。

 最も重要な課題は、石油や天然ガス、石炭などの化石燃料の燃焼によって生じる二酸化炭素の排出量を減らし、最終的にほぼゼロにすることである。こうした燃料は、現代の世界経済の核となっており、世界の商業用エネルギーの約5分の4を占めている。再生可能なエネルギーへの転換や、化石燃料から発生する二酸化炭素を削減することで、排出量を減らすことは可能である。

 重要なポイントは、化石燃料のほぼ75%が限られた用途のために使われていることである。すなわち電力と自動車の燃料、住宅の暖房、および製錬、石油化学、セメント、製鉄といったいくつかの産業へのエネルギー供給である。そうした分野で環境に優しい技術が必要である。

 最新の経済的、技術的予測によれば、主要経済部門で今後数十年以内に環境に優しい技術を開発し、それが採用されれば、二酸化炭素の排出量を金銭に換算すると、世界の年間所得の1%以下にまで削減することができる。それによって、将来、長期にわたって発生するダメージを回避することができる。

 言い換えると、世界は持続的な経済成長と二酸化炭素の排出量の削減という、二つの目的を同時に達成することができるのである。また富裕国は、貧困国が新しいクリーン技術を採用できるように経済的な支援を行うことができる。

 世界は多くの危機に直面している。今回も、話し合いを継続するという約束以上のことは何もできなかった、という皮肉な声もある。しかし、バリ会議から前向きなメッセージを読み取ることができる。190カ国が意味のある協定に合意したのである。現代の科学と技術が、計画を達成する現実的な希望を与えてくれたのである。

 今後は困難な仕事が待ち受けているが、バリ会議によって展望が開けつつある。今こそ、約束を実現すべき時である。

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