東京で「お金のない若者」が排除され起きている事 ディズニーも高嶺の花、カフェすら混んで座れない

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一方、そのようにして広場を囲んで閉鎖することは「座れない場所」をさらに作ることにもつながる。この場合は一時的なもので、特段批判するのもおかしな話だが、こうした締め出しは他の街でも行われている。

その顕著な例が、トー横広場だろう。ここには、ニュースなどを連日騒がせていた「トー横キッズ」たちが座り込み、さまざまな犯罪の温床にもなっていた。そのため、東京都はこの区域を閉鎖。現在では、歌舞伎町の真ん中に大きな空白ができている。

柵で囲われているトー横広場
柵で囲われているトー横広場。しかし、トー横キッズたちは近くの場所に移動しただけで、根本的な解決にはなっていない(筆者撮影)

トー横キッズの問題が、さまざまな問題を生み出していたことは否定しようのない事実で、この街の治安をことさら悪くしていたこともある。メディアでの報道も相まって、こうした閉鎖に賛成する人も多い。

長期的な視点に立った街のプランニングが求められている

問題は、このように閉鎖したところで、彼らの存在がすぐに消えるわけではないことだ。そもそもトー横キッズたちは何らかの事情で家出をした子どもも多く、貧困や家庭内暴力などさまざまな事情からトー横に流れてきている。それらの問題の根本的な解決がないまま、彼らを物理的に締め出しても、その存在は消えるわけではない。

実際、歌舞伎町の取材を続けるライターの佐々木チワワ氏に聞いたところ、締め出されたトー横キッズたちは、すぐ横の区画に移動しているだけだという。

そもそもの問題の根源を見直さなければ、治安向上にはつながらない。それどころか、歌舞伎町にぽっかりと空いた空間は「単にみんなが使いにくい」あるいは「もったいない」土地を生むだけになっているのだ。もっと長期的な視点に立たなければ、治安改善も、街の魅力の向上にもつながらないのである。

渋谷の場合も、街のターゲットをビジネスマンやインバウンドにすることは間違っていないだろう。しかし、それが、長期的にどのような影響を渋谷に及ぼすのかを考える必要がある。

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』書影
『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

例えば、コロナ禍のようなパンデミックがもう一度起こり、完全にインバウンド観光客が断たれたら? あるいはなんらかの事情でオフィス需要が急激に低下したら? 

そうなったとき今の渋谷は「ただビルだけがある」街になってしまうかもしれない。しかも、未来の重要購買層である若者たちは渋谷から排除されていたのだから、特にそこに思い入れがない。とすれば、街全体のにぎわいが低下してしまう未来もある。

まさに「若者の静かな排除」の結果として、こうした光景を想像することは難しくないのだ。

こうした「街の高級化」は結局、街全体の利益を損ねる結果につながりかねないか? 単に若い人の「静かな排除」を糾弾するだけではなく、長期的な視点から見て、社会的な不利益が生じていないかどうかも考える必要があるだろう。

前回の記事はこちら:東京に『座るにも金が要る街』が増えた本質理由 疲れてもカフェに入れず途方に暮れる人へ

谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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