アドビが生成AIで人類総クリエイター目指す理由 クリエイティブツールによる新たな利用者層開拓
前掲の動画を見ればおわかりのように、元映像との違いは小さい。素材となる映像から「映っているもの」「光の状況」「カメラの動き」などを解析し、その情報をもとに映像を作るからだ。だが、そのことを利用者は意識する必要はない。自動的に行われるので、クリエイターから見れば「ちょっと映像素材を伸ばし、編集を楽にする」機能と捉えればいい。アドビは「生成AIで動画を作ること」ではなく、「どうやってクリエイターをサポートするのか」という考え方に集中している。
創造性を奪うのではなく「サポートするAI」
「我々は、生成AIが人の創造性を拡大するものだと信じている」
アドビのシャンタヌ・ナラヤンCEOは、Adobe MAX 2024の基調講演冒頭でそう語った。続いて、同社デジタルメディア事業部門代表のデイビッド・ワドワーニ氏も「生成AIは人の創造性を置き換える道具ではない」と主張する。
AIで作品が作れてしまうということは「クリエイターなどの仕事を奪う結果になるのでは……」と言われる。その危険性はたしかにある。
だが、少なくともアドビは、創造性を発揮するのはあくまで人であり、面倒だったり難しかったりする作業をサポートするもの、と位置付けている。動画生成AIの実装はその典型例だ。
そして、他社の生成AIと比べた3つ目の違いは、もっとも大きな違いでもある。それは「安心して商用で使える」という点だ。
生成AIには「なにをもとに学習したのか」という課題がつきまとう。他者の著作物から学習し、その結果として、出力した画像や動画が他者の権利を侵害してしまう可能性があるからだ。
もちろん実際には、「生成AIを使えば必ず権利を侵害してしまう」と考えるのは間違いである。
他者の著作権を侵害する目的(例えば、あるキャラクターに似たものを描かせようとする)があり、侵害の意図をもって生成したコンテンツを外部に公開する行為は問題を生みやすい。それは生成AIが絡む・絡まない以前に「似せる意図」と「公開」が問題になる。
また、そもそも意図はしていなくても「似たものが出る」ことはある。そこはまず利用者が「出たものを使うべきか」自分で判断する必要がある。これもまた、本質的には、生成AIを使ったか否かはあまり関係ない。
他方で、利用者に似せる意図がなく、知識や認識の不足で「似たものが公開されてしまう」リスクはある。
前置きが長くなったが、アドビが配慮しているのはこの部分だ。
同社はFireflyの学習について、権利上問題のないオープンなコンテンツと、自社のコンテンツ・ストックサービスである「Adobe Stock」から、著作権上の問題がなく、AIの学習にも許諾するという条件を許諾したもののみを利用している。だから「似せる意図なく作られたもの」を公開する場合、ビジネス利用上のリスクが最小限となる。
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