アドビが生成AIで人類総クリエイター目指す理由 クリエイティブツールによる新たな利用者層開拓

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そのうえで、ゼロからAIだけでコンテンツを作るのではなく、人間が作業するうえでのサポート役と位置付ければ、さらにリスクは小さくなる。そしてもちろん、クリエイターからの反発も最小限に抑えることも可能になってくる。

コンテンツのニーズ拡大をツールで支える

アドビが生成AIの利用拡大を進めるのは、市場の要請と彼らのビジネス戦略がマッチしているからでもある。

アドビのワドワーニ氏は次のように説明する。

「過去2年間でコンテンツへの要求は5倍に拡大し、クリエイティブチームを持つ10社のうち9社が人を追加雇用し、雇用自体は2倍に増えている」

アドビ
コンテンツニーズは増大するが、それをカバーするにはクリエイターが不足している、とアドビは説明(筆者撮影)

SNSや映像配信、デジタルマーケティングなどの拡大によって、コンテンツは、利用者と利用端末、時間によって適切な形で「出し分ける」必要が出てきている。例えば同じ広告向け動画であっても、「縦長なのか横長なのか」「どの地域に出すものなのか」「画面サイズはどのくらいなのか」など、バリエーションはどんどん増えていき、同時に作業量も増える。

結果として(少なくともアメリカでは)クリエイターの雇用がコンテンツ増加ペースに追いついておらず、だからこそより効率化する技術として生成AIが必要になるわけだ。

また、すべてをデザイナーやクリエイターだけが行うとは限らない。社内向け資料やアイデアスケッチ、理解を助けるためのコンテンツなど、日常的に誰もが必要とする「素材」は多数ある。アドビはそうしたコンテンツを作る人たちを「コミュニケーター」と呼んでいる。要は、「デザイナーの肩書はないが、業務上なにかを作らねばならない人たち」だ。

アドビは「Adobe Express」というツールも用意している。これはウェブブラウザーだけで使えるものだが、ビデオ編集からチラシ作成まで、幅広い用途に使える。しかも無料で使い始められる。

だからといって質が低いわけではなく、プロのクリエイターに近い品質が実現できる。以下はビデオを簡単に編集した例だが、これも少ないビデオ編集の知識で作れる。人の切り抜きなどにはAIが使われており、Fireflyで作った映像・動画なども組み込める。

Adobe Express。ウェブからすぐに使えるツールだが、高度なビデオ制作にも対応(筆者撮影)

アドビはAdobe Expressを、PhotoshopやPremiere Proでは荷が重いと感じる幅広い人々向けに提供している。だが、積極的に高度な技術を組み込み、プロにも使えるツールとして用意している。

理由はシンプル。クリエイターとはいえ、全ての領域に精通しているわけではないからだ。

Photoshopには詳しいが動画は専門外な人や、動画編集のプロだが印刷物は苦手、という人は、得意なジャンルとAdobe Expressを使って創造性を拡大できる。

もちろん結果としてアドビのツールを有料で使ってほしい……という流れになるわけだが、徹底的に「便利なツールの提供に徹する」という姿勢がわかりやすい。

この姿勢こそが、ほかの生成AIプラットフォーマーとアドビを分ける大きな違い、といえそうだ。

西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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