ソフトバンク系「PayPayアセット」突然の"幕引き" 運用会社が事業を終了すると、投信はこうなる
ならばなぜ、PayPayアセットマネジメントは、事業継続を断念せざるを得なかったのか。
同社の業績を見ると、純損益が黒字化したのが2015年3月期で、1.3億円の黒字が計上されている。売上高に該当する営業収益は10.9億円だった。その後も純損益は黒字を続け、営業収益は2018年3月期に20.1億円まで増えたが、それをピークに以後、減収続きとなる。純損益は2020年3月期にはついに赤字転落。直近の2024年3月期の純損益は5.1億円の赤字で、これで5期連続の最終赤字となった。
運用資産の額はどうか。2020年9月から2024年3月までの四半期ベースで見ると、個人向けの投資信託は徐々にではあるが、増加傾向にあった。2021年9月に278億円だったのが、2024年3月には523.3億円まで増えている。また2021年3月からは年金・財団の運用資産が計上されており、それが2024年3月時点で142.7億円ある。
問題は金融法人などの運用資産額だ。実はPayPayアセットマネジメントの運用資産は、その多くが金融法人などで占められている。2020年12月の運用資産残高は全体が3440億円で、このうち3096億円が金融法人などの運用資産だった。
それが2023年6月にかけて大きく減少している。同月の運用資産は全体で2320億円、うち金融法人の運用資産が1670.4億円だ。ほぼ半減近くで、それに伴い、全体の運用資産も大幅に減少した。金融法人などから委託された運用資金の流出が大きく、個人向けの投資信託や、年金・財団から委託された運用資金が多少増えても、運用報酬の減少を食い止められなかったのが、今回、事業終了を決定するに至った理由と思われる。
なお今回、PayPayアセットマネジメントは取材に対し、会社については「2025年9月末をメドに事業終了を予定しており、解散決議後の清算業務を経て、会社は無くなる予定」とし、事業については「資産運用残高の多くを占める、機関投資家向けの運用商品(私募投信)を中心に、資産運用残高の拡大が計画通り進まず、足元まで業績は厳しい状況が続いた」と回答している。
業界では個人向けに資金が集まらない会社も
前出のムーンライトキャピタル、あいグローバル・アセット・マネジメントは、いずれも金融庁から再三にわたって業務改善命令が発出されたものの、そのことへの対応が不十分だったため、登録取り消しの行政処分が行われ、結果として廃業に追い込まれた。
対してPayPayアセットマネジメントは、業務改善命令が発出されたわけでもないし、行政処分が行われたわけでもない。業績の悪化と、その改善が見通せないことが、事業継続をあきらめさせたのである。
この違いは無視できない。なぜなら現在、個人向けに投資信託を設定・運用している運用会社の中には、運用資金が集まらずに苦労していると思われるところが、少なからずあるからだ。PayPayアセットマネジメントが業績悪化を理由に事業から撤退するのを見て、「うちもそうしよう」と考える同業他社が出てこないとも限らない。これから投資信託を購入するときは、ファンドの運用成績だけでなく、それを運用している運用会社の業績もチェックする必要があるだろう。
もちろん、機関投資家や金融法人から多額の資金の運用を委託されているような運用会社なら、個人向け投資信託の運用資金が小さくても経営を継続できる。が、個人向け投資信託の運用しか行っておらず、その資金も小さい運用会社は、経営面で厳しい状況に追い込まれるリスクも残る。いくら長期投資を標榜する運用会社でも、自らの経営の持続性が担保されなければ、それは絵に描いた餅でしかない。