「携帯ショップの王者」買収が映す通信業界の苦境 "官製値下げ"が転機に、将来はさらなる再編も

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ファンド傘下で再成長を目指す見通しとなったティーガイア。非公開化後にどのような戦略を描くのか。

TOBに関するリリースによれば、上場廃止後もベインは現状の経営体制を原則維持し、現経営陣が引き続きグループ運営を主導する想定で、「モバイル事業の収益力向上、法人営業の強化、追加M&Aによる成長の加速、成長実現に向けた実行力強化等」を進めるとしている。

すかいらーくといった小売業界の支援実績もあるベインは、過去の知見を生かして店舗運営効率化を進めるもようだ。一方で「従業員の処遇に変更はなく、全国各地で展開するキャリアショップ事業も変わらず存続する想定」とし、人員や店舗削減には慎重な姿勢をにじませた。すでに追加のM&Aを示唆しており、残存者利益の獲得を視野に入れているようにも見える。

さらなる合従連衡が進む可能性

投資ファンドであるベインにとっては、「エグジット」(出口)が将来的に必ず求められる。ティーガイアのような規模の上場企業の場合、PEファンドは対象企業を買収後、企業価値を向上させたうえで再上場させて利益を確定するのが王道だ。

しかし、すでに成熟期を迎えているこの業界で現状のビジネスモデルを維持する限り、中長期的な成長路線は見込みづらい。このため、「再上場は難しく、結局、最後はノジマのような代理店に売り渡す道しかないのではないか」(ある代理店幹部)といった見方もくすぶる。過去には、代理店大手のITXを国内ファンドが2012年に取得後、2015年にノジマ傘下に入る道をたどったケースもあった。

もっとも複数の関係者によると、ベインは再上場を選択肢に入れているという。「成熟市場でも、店舗の利用ニーズは一定あり続ける」(ファンド関係者)。

業界の先行きには、明るい要素も無いわけではない。総務省によると、値下げで下落した3大キャリアの平均ARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)は上昇に転じ、値下げ影響は一服している。店舗削減を推進してきたドコモもここにきて、シェア低下を抑えるためにショップを再重視する姿勢を見せている。こうした変化の兆しをティーガイア再浮揚に結び付けられるか、ベインの手腕が試される。

一方で今回のTOBを機に、業界再編がさらに加速する可能性は高い。ノジマだけでなく、同じく家電量販店のビックカメラも2023年にTDモバイルの事業を承継。代理店からの撤退が目立つ商社でも、兼松傘下の兼松コミュニケーションズは、地場ショップ買収に積極的だ。「代理店は規模がないと利益を出せないビジネスになってきている。さらに合従連衡が進み、数が収斂されていくのではないか」(MM総研の横田副所長)。

携帯ショップ最大手の買収があらわにした、通信業界の大きな変貌。最終的にどのような姿に着地していくのか、業界は岐路を迎えている。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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