ブラザー工業が攻めきれず、「同意なき買収」断念 狙われた側のローランドDGは巧みな試合運び
産業印刷機中堅のローランド ディー.ジー.(DG)をめぐる買収合戦が幕を閉じた。ローランドDGのMBO(経営陣による買収)を受け、対抗TOB(株式公開買い付け)を予告したブラザー工業だったが、5月16日にあっさり提案を取り下げた。
ローランドDGのMBOは、アメリカの投資ファンドで大株主のタイヨウ・パシフィック・パートナーズと組んだものだ。今年2月からタイヨウによるTOBが始まった。
ブラザーの対抗TOBは「同意なき買収」となるうえ、投資ファンドに事業会社が挑む構図だった。そのため市場の関心を集めたが、終わってみると目を引いたのはローランドDGの巧みな試合運びだった。
「価格の戦い」にしなかったDG
「ローランドDGは『ディスシナジー』を主張の前面に出したが、『自分たちの価格のほうが高い』とはあえて主張しなかった。『価格の戦い』にしなかった」
そう述べるのは、企業の買収防衛策などに詳しいIBコンサルティングの鈴木賢一郎社長だ。
ローランドDGが訴えたディスシナジーとは、印刷機の中核部品に当たるインクジェットヘッドの供給に関することだった。同社は使用するヘッドの8割をサプライヤー1社から調達。残りはブラザーと別のサプライヤーからそれぞれ1割ずつ仕入れている。