ブラザー工業が攻めきれず、「同意なき買収」断念 狙われた側のローランドDGは巧みな試合運び
ヘッドの8割を供給しているサプライヤーとブラザーは競合に当たる。ブラザーの傘下に入れば、新製品の開発状況を共有してくれるような現在の関係を維持してもらえず、業績に大きな影響を及ぼす。そのようなローランドDGの主張は、関係者の耳目を集めた。
他方でローランドDGは、タイヨウからTOB価格の引き上げを取り付けた。1株5035円だったタイヨウのTOB価格は4月26日に5370円へと引き上げられ、ブラザーの示した5200円を上回った。
このときブラザーが「『価格引き上げはおかしい』と主張すべきだった」と、鈴木氏は指摘する。
勝負どころを誤ったブラザー
マネジメントバイアウトの略であるMBOは、その言葉のとおり、経営陣が関与する買収だ。非公開化後のローランドDGには現社長が出資する予定になっている。またローランドDGの取締役会は、タイヨウが最初に提示した5035円でのTOBに賛同し株主に応募を推奨していた。
東洋経済の取材にタイヨウのブライアン・ヘイウッドCEOは、「最初に出した5035円がフェアな価格だと思っている」としたうえで「マーケットには競争があるから」とTOB価格の引き上げの正当性を主張した。
ただ、「当初は不当に安い価格で一般株主から搾取しようとしたのか」とブラザーに問われたら、防戦を余儀なくされたはずだ。
TOB価格に対するタイヨウの誠実さを問うことで牽制しつつ、自身はタイヨウの5370円を上回る価格を改めて提示する──。鈴木氏の言うような攻め手をブラザーが採っていたらどうなっていたのか。
しかしブラザーは5月9日に「価格を引き上げない」と発表。5月16日にタイヨウのTOBが成立したことを受けて、対抗TOBの提案を取り下げた。価格引き上げ合戦からの撤退は賢明な判断にみえる反面、勝負どころを誤ったともいえる。