「最も働きたい会社」の豊富な事例による職場論
自分を成長させ成果を上げ続ける優れた人には、その働きにふさわしい処遇をして長期に働いてもらう。そして逆に、パフォーマンスの悪い人には、方法を示しながら努力と改善を促す、というのが人事の要諦だ。
『フォーチュン』が繰り返し「最も働きたい会社」と推賞しているグーグルの、人事制度を設計してきた著者による採用、業績評価、報酬、人材育成、組織運営などについての豊富な事例に基づく職場論だ。人事の客観性、公平性、そしてメンバーの企業へのロイヤリティをどのように育むか。あるいは、マネジャーによってチームの業績がよくも悪くもなること。さらに離職率。それぞれの改善方法などを読みながら「人事制度に国境なし」とうなずき、本書を読了した。基本は長期雇用にある。
1972年、ルーマニアに生まれ、家族で米国に逃れた著者が、GEなどを経て入社した2006年のグーグルの従業員数は6000人だった。その10年後は6万人である。急速に成長する企業の採用活動は戦場のようだ。効率よく、よい人を採用するのはどこでも大変だ。よい人材は限られている。
著者は次のようにいう。「本当に優れた人々は仕事を探していないのだ。素晴らしい業績を上げる人々は、現に在籍している組織に満足しているし十分な報酬を得ている」と。米国は転職社会だとよくいわれる。しかし本書によると「上級職の転職は18ヵ月以内に半分が失敗に終わる」そうだ。また「新しい会社に移った花形アナリストは、入社直後から成績が下降の一途をたどる」「前の会社での成功は、同僚、利用可能なリソース、会社との相性、さらには自ら築いてきた個人の名声やブランドのおかげだったのだ」とある。
きっとそうだろう。ビジネスパーソンは職場(企業)で働くことによって能力が育まれ、その職場環境にあるがゆえに能力を発揮できるのだ。
分厚い本書を読むのが苦にならないのは、各章ごとに無数に素晴らしい言葉があるからだ。いくつか紹介しよう。
「人間は複雑で、悩ましく、厄介な生き物だ。しかし数値にはできないこれらの資質が奇跡を起こすときもある」「スキルを学ぶ最善の方法は、他人に教えることだ」「報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。このふたつを結びつけると学習が台無しになってしまう」「政治活動をするな。データを使え」「優秀な人材を2人雇い損ねたとしても、うんざりするような人物をひとり避けることができるなら、わが社にとってそのほうがよかった」
それぞれとても納得がいく。
ラズロ・ボック(Laszlo Bock)
米グーグルのピープル・オペレーションズ担当上級副社長。世界70カ所以上のオフィスで働く6万人の「グーグラー」の人事を束ねる。米ポモナ・カレッジ評議員、ベンチャーキャピタルの出資を受けている企業数社の顧問や取締役も務める。
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