なぜカープは「非合理的な盗塁死」を繰り返したか 「伝統を重んじすぎて失敗」は企業でも存在する
特に今シーズンは開幕から“投高打低”、つまり得点が入りにくい環境だとの指摘が多かった。そんな中、長打力不足にあえぐカープにとって、1つのアウトの重要性は言うまでもない。
そもそもカープの本拠地であるMazda Zoom-Zoom スタジアム広島は、土と天然芝のグラウンドで屋根もなく、時間帯によっては日光と打球がかぶる。打球のイレギュラーも多く一部では“魔境”と呼ばれることがあるほどである。そうした地の利を生かさず、みすみすアウトを献上することが多いのは非常にもったいなかったのではないか。
カープの例に限らず、統計的に得点へつながりにくいとされる送りバントの多用や、右投手には左バッター、左投手には右バッターといった“左右病”と揶揄される采配など、野球にはデータを超越した戦術がいまだ多い。
野球を見ていて「何でそんな采配をするのかなあ」と嘆く読者も多いだろうが、実はこうしたデータ軽視は、ビジネスでも見られる。例えば、生産性を高める上で、本来は「投入量」に対する「リターン」の多さという2軸で考えるところ、前者の投入量のみで考えるケースが多いと横山氏は話す。
「典型例が『時短』。労働時間を減らせば生産性が上がる、と考える企業が多すぎる。コスト削減も似たようなもので、利益アップのためにとにかくコストを下げることしか考えない企業も多い」
こうした手法は「甘い罠」だと横山氏は続ける。そもそも投入量、コストの削減には限度があり、短期的な思考といえる。言葉を換えれば「ラクしてうまくいく方法」ともいえるが、すぐにできる簡単なものは、他社も追随しやすい。人材採用で金銭的な待遇だけを向上させても、他社が横並びにすればすぐに価値がなくなる、と考えればわかりやすい。
そうではなく、より長期的な視点に立って、適切な投資を行い、長い期間をかけてでも価値を培うこと。急がば回れこそ、ビジネスの成功の秘訣だと横山氏は話す。加えて、何にコツコツと取り組むべきで、逆に何を切り捨てるべきかの見極め力も肝心だと付け加える。
応援する球団の監督が、どんな状況でもバントを選んだり、左投手には右打者を、右投手には左打者を代打に送る時、われわれ野球ファンは「またかよ……」となりがちだが、何のことはない、データ軽視は企業でも起きているのだ。
「地の利」を生かす、渋沢栄一の考え
「地の利」については、地方企業の例が挙がった。ある地方の印刷会社では「地域密着」「顧客第一」を掲げ、週末に開催する地域の縁日に社員を参加させる、ボランティアの炊き出しに積極的に参加する、小中学校の印刷物を無償で引き受ける、といった取り組みをしていたという。
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