なぜカープは「非合理的な盗塁死」を繰り返したか 「伝統を重んじすぎて失敗」は企業でも存在する

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しかし、社長が代替わりしてからはSNSを中心にマーケティング活動へと軸足を移し、積極的な投資を行うように。その結果、売り上げは微増したものの利益が激減してしまい、赤字へと転落してしまった。背景にはマーケティングコストや、商圏を地域から全国へ広げたことによる経費の増加があるものの、横山氏は「地域密着のブランドを崩したことこそ、最大の失敗要因」と指摘する。

もう一つの例として、北陸にある建設会社のエピソードも挙がった。この会社では、売り上げの拡大を狙い、より市場規模の大きい関東圏へと進出したものの、自社の強みを生かし切れなかっただけでなく、中京圏の企業が北陸に進出したことで、地元のシェアも落としてしまったという。

「二世帯住宅に強みがあった会社なのですが、地盤の北陸は二世帯の同居が多い一方で、関東圏では核家族も多く、親と同居する世帯はそう多くない。

2020年の国勢調査では、親と同居する夫婦世帯の割合が最も低いのが東京で、神奈川が44位、埼玉は41位という結果だった。自社のドメインを理解せずにマーケットの規模と、都心部への過度な期待で事業拡大へと走ってしまったという、地の利を生かせなかった好例といえる」

ここで挙がった2社以外にも、自社の強みを理解・活用できずに転落してしまう企業は非常に多いと横山氏。そうした企業に対するアドバイスとして「蟹穴主義」を挙げる。

蟹穴主義とは、渋沢栄一が『論語と算盤』で提唱した考えで、蟹が自分の甲羅の大きさに合わせて穴を掘ることから、ビジネスでも自分の得意なことを認識して極めるのが大事であり、それをもって社会に貢献せよという意味を持つ。「他社の成功事例を参考にするのもよいが、それ以前に、まずあるべきは自社の強みや弱み、ドメインを客観視することなのは間違いない」と横山氏は指摘する。

思えば、昨年日本一となった阪神タイガースは、甲子園という投手有利の球場で、村上や大竹ら強力投手陣を中心とした「守り勝つ野球」だった。球場を味方につける野球ができるかは、やはり重要なポイントなのだろう。

辛いです、カープが好きだから

ここまでカープとビジネスについて解説してきたが、そもそもカープも野球という興行ビジネスを行う、企業である。特に他の11球団と異なり親会社がいないことから、今季のような大失速は観客動員やグッズ収入の減少につながりかねず、経営にも大打撃だ。

かつて新井監督はFA宣言をした際に「辛いです、カープが好きだから」という言葉を残したが、いま全国の鯉党はそっくりそのまま、同じ言葉を返したいはず。野球とビジネスの両面で、来季こそは最後まで駆け抜けてほしい。そう思う筆者なのであった。

前編の記事はこちら:新井カープ「9月の悪夢」経営視点で見る根本原因 「急場しのぎ」の組織運営は遅かれ早かれ瓦解する

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