このことが初めてわかったのは、筆者が子どもたちを指導し始めて間もない頃でした。
集団授業の学習塾を経営していましたが、授業では生徒が演習をしている最中、机間巡視して指導します。そのとき、手が止まっている子のところに行き、考えるヒントを与えたり、わからない場合は教えたりしていました。一方の手のかからない生徒(勉強ができる子)は大丈夫だと思って、声をかけずに、そのまま通り過ぎていきます。すると、そのような生徒は3カ月以内にたいてい塾をやめていったのです。
はじめは何が原因かわかりませんでした。たびたびそのようなことが続くため、「もしかして声かけ?」と思い、できている子にも次のような声かけをするようにしました。
「どう? 大丈夫?」
すると「はい」と返ってきます。「その調子で進めてね」とわずか5〜6秒の対話を入れることで、やめなくなっていったのです。それ以来、筆者は、手のかからない子ほど意識して声かけをするようになりました。
「手がかからない子」にこそコミュニケーションを
実は、この現象は家庭内でも起こっています。
上の子は手がかからないからといって、手のかかる下の子ばかりを対応していたらどうなるでしょうか? 上の子と言っても、まだ子どもです。
「親に気に掛けてもらうには、弟以上に手のかかる子になってしまえばいい」と潜在的に考えないとも限りません。すると今まで手がかからなかった子が、急に手がかかる子になることがあります。この原理を知らずに親がその子を怒ってしまうと、事態はさらに悪化していきます。
しっかりしている子、勉強がもともとできる子ほど、できることが当たり前とみなされ、言葉で承認されることが少なく、その結果、自己肯定感が満たされていない状態になっていきます。
かつて東京大学で学生たちにこの話をしたとき、「実は私、自己肯定感が低いんです」と言う東大生が予想外に多かったことに驚いたことがあります。
彼らは小さいときから、もともと勉強ができる優秀な子であった可能性が高く、自己肯定感がさぞかし高いだろうと周囲は思うかもしれませんが、本人は、できることが当たりまえであり、周囲からの称賛もやがて慣れていきます。言われて当たり前と。また、短所があるとその称賛がなくなってしまうのではないかという恐怖心から、緊張状態になることもあります。
その結果、自分をダメ出ししていくことになります。これが「自己肯定感が下がる原理」です。自己肯定感とは、短所を含めて今の自分を肯定的に認めることができることを言います。ですから、周囲が思っているほど、もともと勉強ができる子の自己肯定感は高くないことがあるわけです。
以上のようなことから、関さんは、手がかかる下の子を意識して何とかさせようと思う必要はありません。なぜなら無意識のうちに親はその子に手をかけているからです。意識しておかなければいけないことは、手がかからない子のほうにこそコミュニケーションを積極的にとっていくことです。
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