ネット私刑は、肥大化した「勝手な正義感」だ 偽計業務妨害で、罪に問われる可能性も

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「会社のメールアドレスは、業務で使用されるものです。嫌がらせによるメールが多数届けば、本来の業務に支障が出るおそれがあります。したがって、会社のメールアドレス宛に、誹謗中傷メールが送られ、記憶にないショッピングサイトやSNSから入会確認のメールが届くという点については、『偽計業務妨害』に問われる可能性があります。

そして、家族や無関係の親族の写真もネット上にさらされているとのことですが、家族や親族のプライバシーを侵害するだけでなく、家族関係を公開されてしまった佐野さんのプライバシーをも侵害しているといえます」

「叩かれているから悪いヤツに違いない」という心理

今回の騒動を、清水弁護士はどのように見ているのだろうか。

「このような現象は『ネット私刑』などと呼ばれるようになってきています。ネット私刑では『みんなが批判しているから』『叩かれているから悪いヤツに違いない』という心理から、言い換えれば、個々人の自分勝手な『正義感』から、どんどん肥大化していきます。

一人一人は、単に自分の意見を言っているだけ、と考えているかもしれません。実際に出てきた疑惑について発信をするのであれば、それはそのとおりでしょう。しかし、騒動の発端に関する批判以外の、サイトへの登録や親族等のプライバシー侵害は、それが『正しいこと』だと信じてやっていたとしても、自己満足に過ぎず、客観的に言えば、ただの嫌がらせに過ぎません。

ネット私刑は、最近とても増えており、その事態に憂慮しています。軽はずみな行動をすれば、かえって自分が責任を問われる可能性があるということを意識し、ネット私刑に加担しないようにするべきでしょう」

清水弁護士はこのように述べていた。

 

清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitterに対する開示請求、Facebookに対する開示請求について、ともに日本第1号事案を担当。2015年6月10日「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル(弘文堂)」を出版。
事務所名:法律事務所アルシエン

 

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