チョーヤが「前代未聞の梅不作」でも平気だった訳 40年の信頼と「一見非合理」な非専属契約の繋がり

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とはいえ、今年のように不作の影響がまったくない訳ではない。影響が出るのは熟成期間を経た2~3年後。このタイミングに商品供給が減らないように、過去に漬けた梅とブレンドし、「味と量の変化がなるべく少ないように」調整しているそうだ。このブレンドの割合が非常に難しいそうで、製造現場では、侃々諤々の議論が交わされることもある。

一連の話を聞いた後、担当編集が「なるほど、一見、非合理なのがポイントなのですね」とつぶやくと、金銅専務は「その通りです」と微笑んだ。

経営学者の楠木建氏は、著書『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)の中で、「誰もが納得するような合理的な戦略は、すぐに競合他社に真似されてしまい、競争優位ではなくなってしまうが、一見して非合理な打ち手は、真似されない。それゆえ、長期利益につながる」と指摘している。

チョーヤの場合は、大企業のように「農家を囲い込む」ことをせず、南河内・紀州の緩やかなつながりの中で共存する道を選んだことが、結果的に梅の安定調達につながっているということなのだろう。たしかにこのやり方なら、年によっては割高に仕入れることはあっても、肝心の調達が途切れることはなく、不作の年であっても、質の高い梅を仕入れられる。

樹上で熟成する高品質な南高梅
樹上で熟成する高品質な南高梅(写真:チョーヤ梅酒提供)

梅の買い付けを支える約450基のタンクと財務体制

その一方で、農家を支えるには、資金も必要だ。実はチョーヤの財務においては、大量のストックを持つための負担が最も大きい。約450基(10万リットル120基、5万リットル約330基)のタンクを保有し、熟成状態を維持しているからだ。

さらに、梅の調達を安定的に行うために、キャッシュリッチな体制も整えている。現在、負債はゼロ。在庫とキャッシュを多く持てなかった1980~1990年頃には、不作で苦しい思いをする時期もあったという。その教訓が活かされているのだ。

タンクで在庫を大量に持つことも、キャッシュリッチの体制も、他社が一朝一夕には真似できない。不作の年には、「なぜチョーヤだけ大量に購入できるのか」とジェラシーを持つ業者もいるそうだ。だが、半世紀をかけ、梅農家のバックアップ体制をここまで築いている企業は日本に唯一、チョーヤだけだろう。

逆に言えば、農協や農家とここまでの付き合いをしないと、農作物である梅を使った梅酒メーカーとして存続できないということだ。「どこから、どのような梅を、どれぐらい、どうやって仕入れるのか」を完全にコントロールできていることが、チョーヤの成功の要因と言えるのかもしれない。

タンク
約450のタンクに大量の梅酒を熟成しながらストックする(写真:チョーヤ梅酒提供)
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