チョーヤが「前代未聞の梅不作」でも平気だった訳 40年の信頼と「一見非合理」な非専属契約の繋がり

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梅酒市場で無二の存在感を誇る同社であれば、専属契約を結ぶ農家は少なくないだろうし、そのほうがチョーヤとしても安心のはず……一見非合理にも思えるが、なぜ専属契約にしないのか?

チョーヤ・専務の金銅俊二氏は、「農作物には豊凶や価格変動がつきものです。それなのに専属契約をして定価、定量で契約するのは、農家にとって得と言えるでしょうか? それよりも信頼で緩やかにつながって、豊凶に合わせて市場価格を鑑み、都度交渉するほうがお互いにウィンウィンで長続きする関係になるのではないかと考えています」と説明する。

しかもこの形態なら、農家は安定した買い取りを背景に、長期的な視点で品質向上に取り組むことができる。一方、チョーヤは高品質な原料を継続的に確保でき、製品の品質維持につながる。

加えて、刻々と変わっていく農家の状況に合わせることもできるという。昨今、高齢化で生産量を減らしている農家もあれば、若手が参入して、加工と販売までの一貫体制に挑戦しはじめている農家もあるからだ。契約で縛らないからこそ、それらの農家とも持ちつ持たれつ、お互いが苦しまない関係でいられるのだ。

この関係性を最も象徴するのが価格交渉で、取材時は8月初旬だったが、6月に購入した梅の仕入れ価格はまだ交渉中とのことだった。一般的な青果物は売買後10日以内に支払うものだそうだが、農家が市場価格などを調整して、チョーヤ向けの金額を協議して決めている最中だという。かなり時間を要する話だ。だが、「農家さんに助けていただいてこそ成長を続けられるビジネスです。そこは待ちます」と金銅専務はこともなげに言う。

話し合いの様子
梅農家と農協、チョーヤの間では、頻繁に話し合いが行われている(写真:チョーヤ梅酒提供)

豊作では買い支え、不作では必要最低限を

チョーヤ梅酒の努力はそれだけにとどまらない。さらに踏み込んで、農家の経営を支えている。例えば、農家が豊作の年には想定量を超えていても、一定量を引き取る。反対に不作の年には、農家に負担の少ない必要最低限の量を買い取る。買い取り価格も、豊作の年は一般市場より高くし、その代わりに、不作の年には一般市場よりも低めの価格で出荷してもらえることもある。市場の需給バランスの影響を受けやすい価格変動で、お互いの経営が傾かないようにサポートしているのだ。

もちろん、豊作のため大量に引き取った梅も無駄にはせず、ホワイトリカーやブランデーに漬けてストックしている。元々チョーヤの梅酒は、最低でもおよそ1年間は熟成が必要なため、翌年の販売を考えると2年分は在庫を持たなければならない。そのため在庫=リスクにはならないのだ。ちゃっかりというか、ストックを使って熟成商品の展開もしている。さらにノンアルコール梅酒用に、梅をフローズン状態でもストックしているという。

フローズン状態でストックされている梅
フローズン状態でストックされている梅(写真:チョーヤ梅酒提供)
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