そのキャリアからして当然ではあるが、田中氏は、スポーツアナウンサーとして頭角を現す。「松坂世代」という肩書も大きかったはずだが。
「野球やってました、東京六大学でプレーしていました、などを先に言うんじゃなくて、ちゃんとアナウンスメントができる人間と評価してもらったうえで『実は僕も松坂世代です』という流れを大事にしていました」
機会があれば聞きたいと思っていたのは、田中氏の実況中継のスタイルだ。他局のスポーツアナの中には「家で考えてきた“名言”を、ここぞとばかりに思いいれたっぷりにしゃべる」人もいる中で、田中氏は目の前のプレーを勘所を押さえて短く、的確に話す。引き締まった筋肉質の実況だ。そのスタイルはどこから?
「若い頃も今も、たくさん資料を作っています。でも、あえて資料はもってこない。頭の中に情報を入れておいて、目の前で今から起きることについてしゃべるのが僕のアナウンスですね。スポーツは確率論で動くので、どうなればどういう展開になって、選手や指揮官はどの確率をとりに行くか、というのを常に視聴者に提案するのが大事です。言葉を用意しているとその判断が鈍り、伝えなければいけないことを置いていく可能性があるからです」
フジテレビのスポーツ部門のエース、田中氏は大舞台を回すMCや実況アナとして実績を重ねていく。バンクーバー冬季五輪(2010年)、リオデジャネイロ夏季五輪(2016年)キャスター、すぽるとメインキャスター、日本シリーズ実況中継、MCとして第2回、第3回WBC現地取材。
「今はもうテレビだけじゃない」
そんな田中氏が「フジテレビ退職」を考え始めたのは2015年のことだ。
「『すぽると!』が2016年に終わると伝えられた。僕のスポーツMCキャリアも10年の区切りで。僕はあくまで“スポーツ実況者”だと思っていた。バラエティなどもたまにはやっていましたが、報道などの仕事はほぼ断っていた。これからもスポーツ一本でやると決めていた。
それにこの頃から、地上波テレビだけじゃなく、DAZNが出てきて、AbemaTVが出てきてAmazonプライムビデオが出てくる。メディアが多角化した時期だったんです。
今はもうテレビだけじゃない。テレビで培った経験、ノウハウで他のメディアに貢献できるんじゃないか。マイクの前でスポーツを伝えることができれば、僕はどのメディアでもよかったので、その頃から独立を考え始めて、2018年に独立したんです」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら