確かにそうなのだ。トランプに勝てればそれでいい、というものではない。大統領として4年の任期に何を目指すのか、ちゃんと有権者に示さなければならない。以前に掲げていた政策を変えるのも結構だが、その場合はちゃんと理由を説明すべきである。
ところがハリス陣営は今のところは安全運転で、今のところ記者会見さえ行っていない。8月29日にようやく初のインタビューをCNNから受けるが、それも生放送ではなくて事前収録である。さすがに過保護すぎるのではないか。
確かに準備不足なのは致し方ない。しかし、メディアから逃げ回っているように見えるのは情けない。トランプさんはときに支離滅裂な会見をするけれども、ちゃんと敵対的な記者たちの前に出てくるではないか。
「もしハリ」で考えられる「3つの材料」とは?
そこで「もしハリ」について、現時点で考えられる材料をいくつか挙げておこう。第1にハリス氏はかなり柔軟だということである。前回の大統領選ではかなり左寄りの政策を掲げていたものの、今回は大胆に中道に寄せてきた。何しろ「シェール開発禁止」なんて言っていたら、油田があるペンシルベニア州では負けちゃうからね。
彼女は自前の経済政策として、食品価格の統制と住宅費補助を打ち出している。これらはさっそくメディアの批判を浴びている。価格統制は市場介入みたいだし、住宅費補助は不動産価格を引き上げてしまいそうで、いかにも筋が悪い。細部が発表されていないところをみると、たぶん深追いはしないだろう。まだ試行錯誤の途中という感がある。
面白いのは、彼女がトランプさんの公約である「チップ非課税」を、平気で真似する構えであること。これはレストラン従業員などいわゆる「ホスピタリティワーカー」狙いの政策だが、いいポイントを突いている。
しみじみ両者は、同じいけすの魚を釣ろうとしている。すなわち共和党流にいえば「忘れられた人々」であり、民主党流にいえば「ミドルクラス」である。だから外交政策では対立しても、経済政策では似通ってくる。端的に言えば、来年が民主党政権になっても、トランプ減税は延長となるだろうし、保護主義的な貿易政策も続くと考えておいたほうがいい。
第2にハリス陣営には、旧オバマチームのOB・OGが参加しているということだ。これまでオバマ夫妻は、ビミョーな関係のバイデン政権には口出しを遠慮していたが、ハリス候補には協力を惜しまない様子。特にベテラン選挙マネージャーのデイビッド・プルーフを送り込んだことは、ハリス選対を引き締める効果がありそうだ。おそらくオバマ元大統領は、彼女を「みずからの正統な後継者」と見なしているのであろう。
第3に、彼女を支えるカリフォルニア人脈があるということだ。選挙資金の集まりがいいことから考えても、早い時期から彼女を大統領にしようという地元ネットワークがあったことは想像にかたくない。ハリウッドやシリコンバレーの人脈も協力しているはずだ。何しろカリフォルニア州は人口が約4000万人、GDPではイタリア並み、日系人社会があるという接点もあるから、もともと馴染み深いお土地柄なのである。
ところでハッと気が付くのは、われわれは意外とカリフォルニア州政治のことを知らないということだ。「そういえば昔、アーノルド・シュワルツェネッガーが州知事をやっていたよねえ」などというくらいで、どんな政治家がいて、どんな政策が重視されるのかもわかっちゃいない。ロサンゼルス・ドジャーズの試合は、毎日気にしているんだけどねえ。
この際、カリフォルニア政治の動向も、急いで勉強しておくべきだろう。何しろ現時点の「もしハリ」確率は、少なくとも5割はあるのだから(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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