「危険すぎる山」で"幻の虫"を追うハンターの矜持 クマに30回以上遭遇、妻は大激怒…それでもなぜ行く?
77ミリを超えるサイズになると市場価格は30万円を超えるため、ミヤマ狙いの採集人も多くいる。だが虫オタの眼中にはオオクワガタしかなかった。そうしているうちに、ここでもヒメオオクワガタが飛んできた。こんな低地でも生息していることに驚く。オオクワガタにはやはり寒すぎるのか……。
突然、「バチン!」という何かが路面に落ちる音がした。これまでのクワガタの飛来音とははっきり違う。大きな黒い影が、道路にひっくり返っている。オオクワガタの大歯型だ! ジュワーっとアドレナリンが噴出する。まだ内翅(ないし)が出た状態で脚を動かしている様子を、虫オタは写真と動画に収めた。
「このときは大歯型のオス1頭とメス1頭が飛んできました。自分は飼育もやらないし、標本もやらない。大抵は写真を撮って満足です。でもこのときは記念に持ち帰って、メスはケンシロウくんに託しました」
山奥での絶叫
虫オタは精密機械製造の会社で働きながら、妻には金曜日の仕事終わりから土曜日だけ自由にしていいと許可をもらっている。その代わり日曜日の朝6時までに帰らなければならない。夏になると昼は樹液採集、夜は街灯回りにライトトラップと、寝る間もなく昼夜採集を続けて、日曜の朝に戻って子どもと遊ぶ。
「土日がほぼ寝られないので、体がきついんですよ。それなら採集に行くなって話なんですけど」
遠征のときは特別に日曜日まで時間をもらうが、やはりほとんど寝ずに採集を続ける。そして月曜日の朝には現地から直接会社へと向かう。
「眠気を飛ばすために、窓を全開に開けて音楽ガンガンかけて、ブラックコーヒーをずっと飲み続ける。しかも、わけわかんない山地に行くんで、採れないで帰ることがほとんどです。凹んでないと言ったら嘘になりますね。行きは『今週こそ新産地を当ててやるぞ』とルンルンなんですけど、帰りは『何やっているんだ、俺』ってなります。体は眠いし、交通費は2万、3万かかる。ボウズ(1頭も採れないこと)が嫌なら、採れる場所に行けばいいんだけど、そういう話でもない」
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