北方領土問題は「千島20島」の帰属問題である 択捉・国後・歯舞・色丹だけの問題ではない

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なぜ、ロシアが日本にそのような要求をするかというと、それは18島に対する権利を持っているのは日本だとみなしているからだ。ロシアは、20島すべてを「戦争の結果として取得した」と主張して、すでに権利はロシアに移ったような言い方をしているが、それは主張に過ぎず、法的な権利はないことを自覚しているからこそ日本にそれを認めよと要求しているのだ。

日本にはサンフランシスコ平和条約で「千島列島」を「放棄」したので18島に対するロシアの領有権を認めるような立場にないと誤解している人がいるが、実際はそうではない。国際法的にどのように説明するかはともかく、ロシアは今でも18島の領有権は日本にある、あるいは残っているとみなしている。かりに、日本が「放棄」したことを理由にロシアの要求について応じず、たとえば、「ロシアの千島列島に対する領有権主張について日本は関知しない」と言えば、それだけで交渉はまとまらなくなるだろう。

なお、日本政府は1955年の日ソ交渉において、「千島列島」を交渉対象に含めていた。平和条約で「放棄」したからと言ってロシアとの交渉の対象外となるのではないと、当時の日本政府も考えていたのである。

では、今後、日本としてはどのように交渉に臨むべきか。

日ロ間の交渉対象は「北方4島」であることを双方が確認しており、日本は「歯舞」「色丹」とともに「国後」「択捉」の返還の実現を目指すのであるが、その際18島については、日本が失うことによりロシアが得た大きな利益であることに注意が必要だ。

千島列島の20島は日本が戦争の結果として獲得したのではなく、平和的な話し合い(1875年の樺太・千島交換条約)で日本領となった島々である。サンフランシスコ平和条約で重視された「領土不拡大の原則」にかんがみれば、本来日本が「放棄」させられる理由のない領土であった。

もちろん今となっては、同条約で決まったことを蒸し返すべきでなく、日本は18島の要求を復活すべきでないのは当然だが、かと言って、ロシアが自動的に領有権を獲得することにはならない。

4島だけの返還要求は、すでに大幅譲歩

そしてロシア自身、そのことを自覚し、領有権を持つ日本にロシアの島として認めよと主張しているのだ。

ロシアに帰属すべき理由として、ロシアは「第二次大戦の結果として」つまり「戦争に勝ったから獲得した」と言っているのであり、その当否も問題になりうるが、ロシア以外はどの国も要求していないので、その当否を論じる実益はない。

ともかく、日本が18島を要求しないという大幅な譲歩をすでに行い、ロシアが大きな利益を獲得していることは明らかだ。

「千島列島」の「国後」「択捉」の返還要求は日本として目いっぱいの主張であり、交渉では妥協が必要だとする意見があるが、それははなはだしい誤解だ。少なくともこの2島の返還要求は日本としてすでに大きな譲歩をした結果であることを忘れないで交渉に臨んでもらいたい。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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