新自由主義の復権 日本経済はなぜ停滞しているのか 八代尚宏著 ~本当の生活者・消費者重視の政策とは

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新自由主義の復権 日本経済はなぜ停滞しているのか 八代尚宏著 ~本当の生活者・消費者重視の政策とは

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 とかく見過ごされているが、自由競争を重視する新古典派経済学が経済政策の最終目標と考えるのは、企業の利益ではなく国民の経済厚生の向上である。具体的な経済変数で言えば、1人当たりの実質消費水準の持続的な向上である。念のために言っておくと、そこには物質的豊かさだけでなく、余暇や生活の質なども含まれる。新古典派にとり、企業利益は消費者の利益向上のための手段にすぎない。

新古典派が自由競争を重視するのは、既存の生産者が規制を利用して、本来、消費者に帰属する利益を奪っていることが多いためである。厄介なことに、既得権益者は弱者を装う。

近年、小泉改革による市場競争の行きすぎが経済格差をもたらした、という主張が繰り返されるが、評者は強い違和感を持っている。本書は、小泉改革は、既得権益者の抵抗もあって十分な規制緩和を行えず、自由競争を貫徹できなかったと論じる。既得権益者が焼け太りした改革もあり、消費者の利益改善が限定的だったのである。

新古典派は自由競争を重視するだけでなく、市場の失敗が生じる場合は、適切な規制の導入を重んじる。それでは、時代の要請に応じた望ましい制度改革は進んだか。たとえば、少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、医療や年金、保育制度などは既得権益者の強い抵抗で、昭和の時代からあまり変わっていない。必要な制度改革が行われていないため、消費者が欲する新たなサービスが供給されていないのである。消費者の利益が損なわれ、同時に成長産業の出現も阻止されている。

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