ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド --経済が求める“幸せ”とは《宿輪純一のシネマ経済学》
インド音楽の影響を受けた曲も多数発表する。インドの楽器シタールも曲に入れてくる。1967年に発表されたアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で唯一採用された彼の曲の「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー(Within You Without You)」が筆者は好きである。いまだにiPhoneに入れておりたまに聞く。題名からしてもわかるように、物質的なもの、人間関係から離れて、精神的な世界にその中心が移ってきている。
© George Harrison
© Harrison Family
経済も物質的なものから精神的というか心理的な部分の研究が進んでいる。2011年のノーベル経済学賞を受賞した米ニューヨーク大のトーマス・サージェント教授と米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授の業績の特徴は、家計や企業が将来に対して抱く「期待」、つまり精神的・心理的な面が、経済政策に与える影響を重視した点だ。日本でよく言う「景気」という言葉も、もともとは「気のありよう」という意味である。
1人当たりのGDPが多くなることが、(経済的に)幸せになっていくこととされてきたが、日本をはじめとした先進国はそうなのかということになっている。自殺者が1年に3万人もいる国が幸せなのかという疑問が起こっている。
最近、インドの隣の仏教国ブータンが注目されている。今やひそかなブームともなっている。GDPが日本の20分の1のブータン王国の国民の95%が「自分は幸福」と言っているからである。この国は幸福度指数、GNH「Gross National Happiness」を政策目標としている。
この映画で言いたかったことの1つは、幸福度はおカネや持ち物で測れないということである。日本政府もブータンに倣い新たな幸福度を測れる指標づくりを考えている。