私も彼も異性にモテるほうなので、恋人ならばすぐにできます。でも、親の影響もあって、自分は欠落しているダメな人間だという意識が抜けず、親密な人間関係を築いて継続することができなかった。『下手なりに助け合ってがんばっていこうよ』と言われて、これだけ真剣に話をしたうえで一緒にいられる人は私の前には二度と現れないだろうと思ったのです」
結婚後は、すっかり安心した隆文さんが「可愛げ」という長所を大いに発揮するようになった。飲み歩く習慣は変わらないが、直美さんが家にいるときは早く帰ってくる。1日の出来事を直美さんに話しながら「家飲み」するのが何よりの楽しみなのだ。地方に住んでいる直美さんの父親にも懐き、適度に甘えている。
「感情を隠せず、ストレートでわかりやすい人です。裏表はまったくありません。良くも悪くも子ども、ですね。本当にかわいい夫なんですよ。今でもケンカはしますけど、別れたりする不安はありません。この人とちゃんと生きていこうと決めたんです」
半人前同士が、一人前になるプロセス
酔いが回って来たのか、直美さんの表情が緩み始めた。西荻窪駅を一緒に出て、高円寺で飲み直すことにしたが、目当ての店の閉店時間を過ぎていた。以前の直美さんと筆者だったら別のバーに入って終電を逃していたかもしれない。しかし、後日の再会と乾杯を約束してすんなり別れた。
結婚には「相性」が何より大事だと言われる。筆者もそう思ってきた。しかし、直美さんと隆文さんの結婚プロセスを聞き取って、別の要素もあると考え始めている。半人前の人間同士が肩を寄せ合い、失敗とケンカを繰り返しながらも少しずつ生活を改善していく。どちらかが倒れたときは損得抜きで手を差し伸べる。そして、どうにか一人前の社会人になって生きていくのだ。
この過程はかけがえのないものであり、他者であるはずの相手が自分の一部のようにも感じるようになる。結婚とは、「恋人」が「戦友」に変わっていくことを指すのかもしれない。
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