本書は、新聞社の政治部次長や経済部長、代表などの要職を歴任した元記者が、戦後政治の主要な事件や争点を解説しつつ、歴史的な評価を加え、さらに将来の日本が歩むべき道筋も展望する異色の啓発書である。
政治ジャーナリストの手による解説本はあまたあるが、とかく「政治裏面史」を装った自慢話とか、個性の強い暴露本に傾きがちである。
その点、本書は、庶民の目線からいささかもぶれることなく、その時代の「言葉」という観点から、知られていないエピソードや裏話も交えながら、歴史の証人として明快な発言を行っているのが特色だ。情報を羅列収載しただけの単なる政治用語集ではない。
著者本人が政治のアクターであった
列島改造計画が暗礁に乗り上げたとき、田中(角栄)派の幹部から求められて、メモ形式で「物から心への転換」を提言したことをはじめ、政治家への忠言や記者クラブの活動などで著者本人が政治のアクターであったことが明かされる。戦後史のミッシングリンクを差し出されて、はたと膝を打って読み進める読者も少なくないはずだ。
本書の構成は、独立回復から始まって、1955年体制のスタート、高度成長の光と影、ポピュリズム政治の台頭、政権交代から「安倍一強政治」へ、という一連の流れを包摂し、戦後政治の潮流を浮かび上がらせる。
今夏は戦後70年を迎えて、安倍晋三首相の「総理談話」はむろん、左右を問わず、さまざまな方面からメッセージや激論が行き交うことになった。平和、民主主義を掲げて豊かな経済社会を実現した日本だが、現在の政治の主導権は、集団的自衛権をめぐって暴走の感なきにしもあらずの官邸によって握られている。生来の政治ジャーナリストによって将来に託そうとされる熱いメッセージが広く読まれてほしいものである。
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