「働かずに生きたい」はろくでなしですか 自由を求めて生きるアナーキストたち
著者は自身の恋愛の破綻を振り返りながら、大正時代を生きた伊藤野枝の結婚観を紹介する。相手のためを思っていたはずなのに、結婚を想定することで、相手に同化して、いつのまにか相手を所有物のように振るまい、ひたすら固執してしまう。夫や妻の役割をおしつけ、生をすり減らす。
恋愛に生きた女性の半生
伊藤は親に決められた結婚を足蹴にして、女学校時代の教師の辻潤のもとに走り、結婚。辻は教え子に手を出したとクビになるも働かない。辻が伊藤の妹と浮気したこともあり、大杉栄と恋愛関係に陥って子供をぽこぽこ生む。
伊藤は当時の感覚ではアバズレ。今もか。とはいえ、女性に制約が多かった時代、自由の生を勝ちとってきた彼女たちに賛辞を送る。男性が仕事をやめるとかそんなレベルの話ではないと。ちなみに、著者の結婚破談と伊藤野枝を扱った章のタイトルは「豚小屋に火を放て」。他の章やあとがきにも頻繁に出てくる。
「でも、大正時代の女性たちは、ほんとうにすごい。豚を囲うとかいて家とよむのだ、それが人間らしさだというのであれば、人間じゃなくて豚のままでいい、火を放ってでもなにをしてでも逃げ出すのだ、なんじ真っ黒な大地の豚であれと、直球でいいはなつ。まわりの迷惑かえりみず、ほんきで生の負債をふりはらう」
ちょっと怖いのだが、著者が言いたいことは単純だ。
「わたしたちの中に、これがおもしろいとおもってわれをわすれ、なにかに夢中になってのめりこんだ経験のないひとなんているのだろうか。あとは、それがやましいことだとおもわなければいいだけのことだ。高等遊民、あたりまえ。そろそろ、消費の美徳とむすびついた労働倫理に終止符をうつときだ」
過激なフレーズと自虐的な文章にあふれた本書は思想に興味がなくても、抱腹絶倒は必至。生きる勇気が湧いてくる。ちなみに、本書の写真を見る限り、著者はイケメン。「豚小屋に火を放て」、「黒いネズミたちよ、狂気を喰らえ」とはとても言いそうにないギャップが女性にはたまらないかも。
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