「脱炭素を通じて社会変革」。先進企業に学ぶ戦略 迫り来る「5つの変化」を、ビジネスの好機に

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最後に分野横断的なストーリーを取り上げる。

昨今、企業の成長には、人や企業に関するさまざまな活動をデータ化し、分析情報を基に新たな付加価値を生み出すという、無形資産を用いた事業戦略が重要になっている。

社会課題を起点として、顧客の課題を解決し、成長に貢献する富士通の事業モデルであるFujitsu Uvanceでは、業種間で分断されたプロセスやデータをつなぎ、企業や組織間の協力を活性化させて、これまでにない解決策を導き出そうとしている。

たとえば、多様なステークホルダーが保有するデータに対して、ブロックチェーン技術を応用することで、サプライチェーン全体での取引の透明化やトレーサビリティに関わるビジネス課題を解決するサービスを提供している。

これらのサービスの活用により、バリューチェーン全体のCO2排出量を可視化し、ネットゼロの加速による環境課題解決だけではなく、リサイクル素材の活用といった限りある天然資源の有効活用を促す供給元と需要者のマッチングなどを実現している。加えて、 生産過程での労働者の人権確保を明確化できるなど、社会問題に配慮した製品作りが可能だ。

さらに、量子現象に着想を得たコンピューティング技術(現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組み合せ最適化問題」を高速で解く技術)を活用することで、大規模で複雑な配車・配送計画や製造ラインおよび製造計画を、ごく短期間で最適化するサービスを提供している。

これらは、深刻化する人手不足問題と物流分野や製造業の分野におけるエネルギー消費量削減、資源効率の高い生産プロセスへの対応にも寄与する。

このように、デジタル化は 生産性や資源効率性を高める可能性がある。デジタルインフラやルールの整備、人材育成を大規模かつ戦略的に進め、さまざまな分野に応用していくことで、1.5度目標達成に貢献する新たな事業が有機的に発展していくことが期待できる。

この事例は、20の好機のうちの「高付加価値サービスへ転換する」「移動・輸送が創造的時間を生む」「ロスなく高付加価値な生産へ」に該当する。

ビジネスを変革し、社会の好循環の形成を

これらのストーリーに共通するポイントは、個別企業の取り組みにとどまらず、ステークホルダーの連携によって、社会の変化へとつながる萌芽となっていることにある。

また、事業の土台となるルール・インフラおよびマーケット・マインドへも影響を及ぼしていくことで、個々の事業の有機的発展につながっている。すなわち、脱炭素をはじめとする社会課題解決に向けて、これから起こる変化を見据えることで、大きなビジネスの機会をつかむことができるのではないか。

現代社会では、気候変動問題のみならず、少子高齢化、地政学リスクの高まりによって生じるエネルギー安全保障や食料安全保障問題、多様性に対応した働き方改革と人材獲得など、さまざまな課題に対応していくことが求められている。

このような変化をビジネス機会ととらえ、個々の事業や取り組みの発展と社会のルールや市場変化の間で好循環を生み出していくことで、社会全体で1.5度目標達成や豊かな社会が実現できる。

私たちの「IGES 1.5℃ロードマップ」はそのことを示している。

栗山 昭久 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)リサーチマネージャー

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くりやま あきひさ / Akihisa Kuriyama

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動とエネルギー領域 リサーチマネージャー。2011年よりIGES研究員として東南アジア諸国のエネルギー部門におけるCO2削減プロジェクト導入支援や京都メカニズムなどの国際的なメカニズムの定量的評価・制度構築支援を行ってきた。日本においては、脱炭素社会に向けたエネルギー問題(長中期シナリオに基づく政策評価、炭素中立(ネット・ゼロ)社会に向けたエネルギー収支分析、再生可能エネルギー拡大に向けた電力システムや雇用に関する問題に取り組んでいる。工学博士。

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岩田 生 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)リサーチマネージャー

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いわた いくる / Ikuru Iwata

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)ビジネスタスクフォース リサーチマネージャー。2022年1月まで自然科学研究機構国立天文台において、銀河天文学の研究および大型望遠鏡プロジェクトの運用管理に従事。2022年2月からIGESビジネスタスクフォース/日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)事務局にリサーチマネージャーとして所属。理学博士。

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