分析力だけでなく仕事に「直感」が必要な納得の訳 憑依力こそ最高の成果を生み出すスキルである

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いくつか当社で担当した事例を挙げると、たとえば「角ハイボール」キャンペーンは、「ウイスキーの売り上げを伸ばしたい」というクライアントの課題はもちろんですが、「ビールでもチューハイでもない、新しくてリーズナブルなドリンクメニューで30代の若者を満足させたい」という飲食店の課題を解決するものでした。

折しも2008年のリーマン・ショック直後のこと、街中では安い立ち飲みスタイルの飲食店が増えていました。そんな状況もうかがいつつ、「ハイボール、はじめました」と銘打ったキャンペーンが考案され、今では、ハイボールがメニューにない飲食店はない、というくらい浸透しています。現在からは想像もつかないかもしれませんが、ほんの十数年前には見られない光景でした。かつてはウイスキーといえば「おじさんが水割りやオンザロックで飲むもの」だったからです。

また、タクシー配車アプリ「GO」のマーケティングでは、「タクシーをつかまえたい瞬間ってどんなときだろう」という問いから課題解決策を練っていきました。

海外ではUberなどが普及し、配車アプリも当たり前のように使われているにもかかわらず、日本ではなかなか広まっていない。そこで通勤や仕事の外出時にタクシーを使うという「ビジネスマンの新常識」として「GO」を打ち出すというのが第一でしたが、それだけでなく、「お母さんは子どもの塾の送り迎えに困っていないだろうか」、あるいは「お年寄りは通院の足がなくて困っていないだろうか」「荷物が多くて電車移動はつらい」「悪天候だが外出しなくてはいけない」などなど、タクシーを使いたくなるさまざまなシチュエーションを、その立場に置かれた人になりきって検討したのです。

自分とは異なる属性の人に自らに憑依させる能力は、このように、メインターゲット周辺の最大公約数を探る際にも役立つわけです。タクシーに乗るオケージョンは総じて言えば、困っているときに頼るもの。その発想から「困ったらGO!」というコンセプトが生まれ、それが「どうする? GOする!」というキャッチコピーになりました。

さまざまな属性の人々に目を向ける

モノやサービスをつくるというのは、世の中に何かしらの価値を提供するという営みです。そこには必ず届けたいターゲットがいる。つまり自分とは異なる属性になりきって、モノを見たり考えたりする能力は、モノやサービスをつくることに関わるすべての人に欠かせないといっていいでしょう。

そんな直感を鍛えるためには、手はじめに目の前の仕事に集中するだけでなく、少し視野を広げて世の中を眺め、さまざまな属性の人々に目を向けてみるといいと思います。

トレンドは常に移り変わっているので、私自身、自分からすごく遠い存在も含めて世の中の人々を興味深く眺め、自分なりに考えたり見立てたりすることは今も常に意識しています。

(構成・福島結実子)

齋藤 太郎 コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター

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さいとう たろう / Taro Saito

慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える。

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