実際に日本に対しても同決議を根拠とする言動がみられる。2024年5月20日に台湾で新総統就任式が行われたのと同日、在日中国大使館は「台湾問題と中日関係」と題する座談会を主催。そこで呉江浩大使が「『一つの中国』という原則は国連2758号決議で確認され、国際関係の基本原則と国際社会の普遍的共通認識であり、すべての加盟国がそれを守る義務がある」と述べた。
ただ、中国側が主張するように2758号決議を根拠にすることができるかについては、専門家から否定的な見方が出る。『中国外交と台湾—「一つの中国」原則の起源』などの著書をもつ法政大学の福田円教授は2022年9月13日の『朝日新聞』への寄稿で同決議は「『一つの中国』原則の核心である『台湾は中華人民共和国の一部である』という含意はどこにもない」と指摘する。
日中共同声明の立場を繰り返し中国に説明せよ
「一つの中国」をめぐり中国と台湾、西側諸国は双方に齟齬や曖昧さを残してでも妥協してきた。しかし、中国が経済発展や軍事力の増強で実力をついてきたことで、それまでの妥協を可能にさせてきた日米など西側諸国による経済や軍事力による抑止という条件は成立しにくくなりつつある。
実際に中国は台湾に対しての軍事的な圧力や関係国への強硬な外交姿勢を示し、より明確に台湾に対する自国の主張を通そうとしている。自信の表れだろう。しかし、それが逆に西側諸国の警戒を招き、日米欧が台湾へのコミットメントを強化させる方向につなげてしまっている。
日米など西側諸国はなおも台湾独立は支持しておらず、「一つの中国」政策の枠内で情勢に応じて政策調整をしているにすぎない。だが、中国からすれば「一つの中国」が尊重されておらず台湾が事実上独立しているように振る舞っている許しがたい状況にみえる。
2758号決議の喧伝や7月末の日中外相会談のような勝手に相手国の発言を修正する強硬さをみせているのはむしろ自信というより台湾統一に逆に近付かない中国の焦りだろう。
現在の状況は、「一つの中国」をめぐる曖昧さをなくしていこうとする中国の挑戦に対し、西側諸国もいちいち応酬せざるを得ないという悪循環を生じさせているといえる。
曖昧さは台湾海峡の平和と安定という現状維持のための外交的な知恵であり、つねにその知恵に立ち戻らなければならない。中国が世界に対して強める「一つの中国」原則に関する主張や姿勢について対応するためにも、日本政府は冷静に日中共同声明の立場とその意味の重要さを中国に繰り返し説明し続けるしかない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら