「一つの中国」原則の浸透めぐる中国の自信と焦り 日本は「日中共同声明」を繰り返し説明せよ

✎ 1〜 ✎ 40 ✎ 41 ✎ 42 ✎ 43
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

1972年の日中共同声明の第3項には「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とある。

日本政府にとって一義的には台湾が中華人民共和国の領土の一部だとする中国の立場に「理解し、尊重」はするが、「承認」といった完全な同意まではしていないことに力点がある。

ただ、日本はかつて台湾を植民地として支配していた旧宗主国であるだけに、日本の台湾に対する立場表明が「理解し、尊重」だけでは不十分だと中国は考えた。そこで日本が「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持」するという文言も加わった。

ポツダム宣言第8項には台湾を中華民国に返還するとしたカイロ宣言の履行が含まれている。1972年以降の日本にとっての中国は中華人民共和国が後継したものだと日本は承認している。

そのため、第3項は台湾が中華人民共和国に返還されることを日本は容認しているが、「理解し、尊重」としているように現時点では中華人民共和国の一部になっているとまではいえない立場をとっていると理解される。

中国は玉虫色の合意を明確化したい?

同様の玉虫色の合意は、米中間など中国とほかの西側諸国間にもある。アメリカは「台湾は中国の一部」という中国の立場を「認識する(acknowledge)」とした。またアメリカ議会は台湾関係法を制定し、台湾へ防衛用の兵器を売却し続けることや台湾住民の安全を脅かす武力行使やその他の強制的な方式に対して適切な行動をとるとしている。

日米をはじめとする西側諸国のこれらの立場は中国が主張する「一つの中国」原則を一定程度は認めるが、現状として中華人民共和国の統治は台湾に及んでいない前提で政策を決めていくという立場である。これらは一般に中国が主張する「一つの中国」原則と異なる「一つの中国」政策と呼ばれ、アメリカなどは実際に自国の台湾政策をそう呼称する。

中国としては「一つの中国」原則を完全に認めてもらえない不満がある。ただ、これらの構図が形成されていった1970年代前後は西側の経済協力が不可欠であった。そのうえアメリカによる圧倒的な軍事的抑止もあり、台湾を武力統一することは不可能に近かった。ゆえに「一つの中国」という言葉を相互に曖昧化することで齟齬を黙認する妥協を続けてきた。

ところが、近年中国はこの曖昧さに挑戦する動きを見せ、自国の立場を明確にして相手国への受け入れを求めるような事例が増えている。

とくに顕著なのが国連総会2758号決議の喧伝だ。同決議は1971年に開かれた第26回国連総会で採択されたもので、中華人民共和国が国連安全保障理事国の代表権を獲得し、「蔣介石の代表」を追放することを認めたものだ。中国はこれを「台湾は中華人民共和国の一部」だと国際社会が認めた根拠と主張する。

関連記事
トピックボードAD