コンピュータはどれだけ優秀な「投資家」か あのバフェットを超える日も近い?

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本当の問題はむしろ、現実世界の市場が金融特異点に近づいていないことだ。金融特異点が示唆するのは、すべての価格が、企業利益予想や、技術革新や長期的な人口動態の変化との相関といった要素に基づくものになるということだ。しかし賢明な投資家は、このようなあいまいな言い方はしない。

この意味で、先頃中国で起こった株式市場暴落について考えずにはいられない。報道によると、感情に流されやすい大勢の人々が直感や盲信に頼って取引している。

投資にストーリーを用いる危険性

私が著書、『投資バブル根拠なき熱狂』で指摘したように、市場はストーリーに動かされるようだ。偉大な新時代や、迫りくる不況というストーリーがある。もっと根本的な、テクノロジーや資源の減少といったストーリーもあれば、政治や陰謀説もある。

真実かどうかは誰にもわからない。それでもストーリーは独り歩きする。時には急速に広まることもある。分別がありそうな人々と腹を割って話していて、相手がとんでもない考えの持ち主だとわかることがよくある。このような愚かな人たちが市場に影響を与える。他の投資家たちも彼らを無視できないからだ。こうして熱に浮かされた状態は、すぐには消え去らない。

おそらくバフェットの過去の投資スタイルは、現在では取引アルゴリズムに取り込めるだろう。しかしそれでバフェットの才能が値打ちを下げるわけではない。バフェットの成功の真の源泉は、ある手法を放棄し他の手法を編み出す時期を心得ている点にあるようだ。

金融特異点という着想には興味を引かれる。しかしそれは、過去に計画経済をもてはやした知的ユートピアと同じ錯覚にすぎない。よくも悪くも人間の判断力こそが、今後も投資判断と金融市場の結果を左右する力であり続けるのだろう。

週刊東洋経済2015年8月8日・15日合併号

ロバート・J・シラー 米イェール大学教授

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Robert J. Shiller

ノーベル賞受賞経済学者。1972年にMITで経済学のPh.D.を取得。「資産価格の実証分析」を評価され、2013年にノーベル経済学賞を受賞。2000年に刊行された『投機バブル 根拠なき熱狂』は、アメリカのITバブル崩壊を予言した書としてベストセラーとなった。同じくノーベル経済学賞を受賞(2001年)したジョージ・A・アカロフとの共著『アニマルスピリット』も、サブプライムローンに端を発する金融危機を理解する書物としてベストセラーとなった。著書に『それでも金融はすばらしい』『不道徳な見えざる手』(アカロフとの共著)など。

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