評者は大学でマクロ経済学を教えると同時に米国の政治思想史も教えている。日本の近現代史は米国を抜きに考えることができないし、現在、日本では集団的自衛権を巡って議論が行われているが、集団的自衛権行使の対象となる“同盟国・米国“を十分に理解することなしには、その議論の本質を十分にわかることはできないだろう。だが、学生たちの米国に関する情報、理解は驚くほど浅薄である。それは学生たちだけの責任ではなく、日本全体の米国理解の欠如によるものではないかと思っている。
日本におけるアメリカ論は針小棒大で結論ありき
たとえば、日本では「独立戦争」や「南北戦争」という言葉を普通に使っているが、そんな英語表現は存在しない。正しくは「American Revolution」であり、「The Civil War」である。これらの言語表現は米国にとって単に言葉の表記以上の重要な意味を持っている。正しい言葉を使わなければ、正しい理解はできない。
日本人が書いた米国論でベストセラーになっている本の中にも、本当に米国を理解しているのか疑問に思わせるものが少なくない。著者は「日本におけるアメリカ論には、過剰なバイアスがかかる傾向がある」「針小棒大で結論ありきの論法が多い気がする」と述べているが、同感である。
本書は、米国における対日観の推移、保守とリベラルを軸とする戦後政治の動向、社会の変貌、外交政策、衰退論の検証、今後の日米関係など、広範なテーマを取り上げ、極めて簡潔に説明している。新書という制約もあり、やや説明不足の面もあるが、米国社会を概観できる優れた入門書になっている。本書はいわば自らの米国理解の程度を確認するのに最適な本である。夏休みの課題図書の一冊に十分になりうる。
渡辺靖(わたなべ・やすし)
慶応義塾大学環境情報学部教授。専門は米国研究、文化人類学、文化政策研究。1967年生まれ。上智大学外国語学部を卒業。米ハーバード大学大学院にてPh.D.(社会人類学)を取得。同大学アソシエート、パリ政治学院客員教授などを歴任。
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