まず、【1】のトップが語ることの重要性は、いうまでもないだろう。
世界的宗教の開祖であるイエスも、ムハンマドも、釈迦も、ひたすら語り続けた人物である。その言葉が人々を腹落ちさせたからこそ、巨大な宗教へと発展していった。
たとえば中東クライシュ族の一商人にすぎなかったムハンマドは、西暦610年のある日、大天使ジブリールに出会い、唯一神の啓示を受けて、その言葉をひたすら何度も人々に伝えていった。
自身が神の言葉に腹落ちし、それを説き続けたからこそ、イスラム教は国を動かすような、世界的宗教になっていった。
これは、企業経営も同じだ。『宗教を学べば経営がわかる』の対談ではリクルートの事例を取り上げているが、本記事では、ソニーを復活させた平井一夫社長を取り上げよう。
社員同士で「ソニーらしさの解釈」が異なる事態に
創業者の井深大と盛田昭夫が亡くなって時が経ち、ソニーでは同社の理念をめぐって社内が割れた時期があった。
多くの方が覚えておられるように、ソニーは2000年代に入って創業以来の主力であったエレクトロニクス部門が低迷し、会社全体が厳しい状況になってきた。一方、金融事業は収益が上がり始めていた。
すると、「ソニーはエレクトロニクス」にこだわる人たちと、金融を含め多角的な経営を志向する人たちとの間で対立が生じてしまった。
「ソニーとは何の会社なのか」をめぐるアイデンティティが揺らぎ、社員同士で「ソニーらしさ」についての解釈が異なるという事態を招いたのだ。
実際、当時私も何人ものソニーの幹部や社員に会って「ソニーとは何か」を問いただしたが、その答えはバラバラだった。
「ソニーとは何か」が多義的だったのだ。
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