いまこそユーロ圏は財政統合に踏み出すべき すべての国がドイツのようにはなれない

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ドイツとギリシャの間を取り持ったとされるフランスにしても、中立的な立場にあらず、あくまでドイツの譲歩を引き出すための媒介役として立ち回った印象が強い。ドイツがマルクを使用する単独国ならば話は別だが、ドイツが共通通貨圏に所属することで利得を得ている以上、相応の作法はやはり求められる。

現状、ドイツ経済とて健全な状態にあるとは言えない。同国の経済を貯蓄・投資(IS)バランスから俯瞰すれば家計・企業・政府の国内部門すべてが貯蓄過剰という異様な状況にあり、海外部門の需要を取り込むことでバランスが取れている。どう考えても内需刺激が求められる状況と言える。

裏を返せば圧倒的な外需依存の構図が定着しているわけだが、これを可能にしているのは元より高いドイツの国際競争力は当然にしても、ユーロ圏の苦境を背景とするユーロ安が追い風となった面は否めない。ユーロ安で国際競争力が改善されたかどうかは議論の余地があるにしても、少なくともユーロ安によって海外収益が嵩上げされたのは事実である。

財政同盟のない通貨同盟は成功しない

なお、ドイツ輸出の 4割弱はユーロ域内向けである。ということは、ドイツ以外の加盟国が皆、(ドイツがそう望むように)ドイツに近い ISバランスになってしまえば、ドイツは今ほど輸出で稼ぐことが出来なくなる。こうした「ドイツがドイツらしくいられるのは他の国がドイツではないから」という実態をドイツは真摯に認識する必要があるだろう。

その上で期待される政策としては、自国の内需拡大を狙った財政出動や域内需要の押し上げを狙ったユーロ圏共同債の導入推進などが考えられるが、今のところ、その気配は感じられない。6月25~26日のEU首脳会議ではユンケル欧州委員会委員長の名の下に「EMUの完成に向けて」と銘打たれた報告書が公表され、この中でユーロ圏財務省(a euro area treasury)の設置なども示唆されているが、ここに至るまでのドイツの言動を踏まえると、画餅で終わる予感を抱かずにはいられない。こうした現状を踏まえ、「債務期限の延長くらい見逃してやれ」というムードが一部加盟国から出てきても不思議ではない。

少なくとも過去 5年間のギリシャ騒動はユーロが誕生する以前から指摘されてきた「財政同盟のない通貨同盟など成功しない」という経済学者による根本的な懸念が正しかったことを証明した。問題の所在が明らかになった今、ドイツを中心とするユーロ圏はいよいよ財政統合に係る作業に着手し始める時が本格的に到来したと自覚すべきであり、店ざらしになっている共同債導入に向けての議論が進展することを大いに期待したい。 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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