汗と涙の甲子園が、子どもの可能性を潰す 甲子園と陸上インターハイに「魔の共通点」

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一方、世界陸上北京大会では、大会初日の19時20分から予選、同2日目の19時10分から準決勝、同日の21時15分から決勝が行われる。予選と準決勝の間は丸1日空き、準決勝と決勝の間も約3時間のインターバルがある。もちろん、200mや4×100mリレーなど100mに出場する選手が絡む可能性の高い種目は、大会2日目までに組まれていない。

インターハイはスプリンターに万全な状態で、「記録を狙わせる」というスケジュールではなく、耐久レースをやらせて、誰が強いのかという“持久戦”の要素も強い。だからインターハイを制したところで、それが世界へ通じる1歩になるとは言い難い。単に日本の全国大会で優勝したという結果でしかないのだ。それは甲子園も同様だろう。

甲子園の連投は、美談で済まされない

2005年の夏の甲子園、最後のバッターとなった田中将大(現・ニューヨークヤンキース)に球速147km/hの速球を投げ込んだのは、メディアから「ハンカチ王子」と騒がれた斎藤佑樹(現・北海道日本ハムファイターズ)だ。試合を重ねるたびに、“ハンカチフィーバー”はヒートアップした。決勝は延長15回の末の再試合。4連投となった斎藤が、決勝2日間で296球をひとりで投げ抜き、栄光を手にした。

高校野球の場合、ピッチャーの連投がよく問題視される。2014年の甲子園から準決勝の前に「休養日」が設けられるようになり、スケジュール上では3連戦はなくなった。しかし、延長再試合がないとは限らないし、都道府県予選から連投の場面は少なくない。ケガの危険性は当然だが、筆者が強く指摘したいのは、100球をゆうに超えるような球数で連投することが、高校野球以外にはないということだ。

近年の野球を考えてほしい。米国・メジャーリーグでは先発ピッチャーは5人が基本で、中4日ほどのローテーションを組むのがスタンダード。完投を目指すのではなく、1回の登板は100球ほどで降板する(日本のプロ野球は5~6人の先発ローテーションで、中6日ほどの登板が多い)。セットアッパー(中継ぎ)もローテーション制を設けているチームもあり、連投する機会は少なくなっている。クローザーは1回限定が基本。もちろん連投することもあるが、1回の登板で投げるのは15~20球ほどだ。

高校野球を卒業してしまうと、先発完投型で連投する場面などまったくない。すなわち、ピッチャーは日本の高校野球でしか通用しない“野球”をやっているわけだ。ビジネスの世界でいえば、競合他社に転職する予定の人が、その会社でしか通用しないやり方を極めたところで、次の会社ではあまり役に立たないのと一緒だ。

連投を見越したトレーニングは、高校野球以外では役に立たない。むしろ、ケガの危険性を考えると、それは避けるべきリスクだろう。連投でいくら好投したとしても、そんな場面はプロに入ればやってこない。陸上インターハイも野球の甲子園も“世界規格”に合わせて、将来につながる仕組みをつくるべきだと思う。

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