英国政府とBBC、「壮絶バトル」の一部始終 ライセンス料制度廃止や規模縮小を巡り攻防
その2日後の16日、文化・メディア・スポーツ省が特許状更新に向けての、議論のたたき台となる提案書を発表した。下院で説明を開始したのは文化・メディア・スポーツ大臣のジョン・ウィッティングデール議員だ。今年2月、BBCに厳しい報告書を出した委員会の委員長(当時)である。
「10年前とメディア環境は激減した。消費者の選択肢もはるかに広がった。BBCの規模、統治構造、規制体制は今のままでいいのだろうか」(ウィッティングデール大臣)。
86ページにわたる提案書の概要は以下であった。
BBC全体を徹底的に見直す方針を定め、同省のウェブサイトを通じて提案書への意見を10月8日まで受け付けるようにした。来年の春には結果をまとめた文書を出す予定だ。
BBCトラストは政府への敵意をむき出しに
見直しの結論によっては廃止も視野に入っているBBCトラストは、早速、政府の提案書への見解を発表した。
「情報を与え、教育し、楽しませるBBC」、「様々な人に様々な番組を提供するBBC」、「政府からの独立を維持するBBC」ゆえにこそ、国民から支持を得ていると述べ、「BBCは政府にも、そして経営陣にも所有されていない。ライセンス料を払う国民が所有している」と続けた。
BBCは「常に万人のために存在する」、「独立しているー国営放送でもなければ、商業放送でもない」。この「2つの原則を満たすように存立し、資金が提供されるべきだ」。
規模についての箇所では、「BBCのサービスの将来の規模やスコープについての決定がなされる場合、必ず」国民に意見を言う機会が与えられるべきだとして、政府とBBC経営陣との密約に対し、再度異議を申し立てた。
22日には、BBCトラストがBBCの将来について国民から意見を募るウェブサイトを開設した。この上、文化・メディア・スポーツ省も改めて見直しのための議論を始めることになっている。今年いっぱいはBBCの将来についての論点が百出しそうだ。
抜本的な見直し自体は、時代の流れだろう。BBCはもはや、放送局というよりも、デジタル・メディアと言った方が近い。番組をスマートフォン、タブレット、コンピューター、あるいはネットにつながったテレビで見たり、放送後の好きなときに見る形が広がっている。
しかし、英国内の番組の制作本数の半分はBBC向けであり、見逃し視聴サービスもBBCのアイプレイヤーがあったからこそ、一般化した。英国のメディア市場でBBCの存在は大きく、その一挙一動で市場全体が変容してゆく。
問題は、BBCが小さくなったときに、市場にできた隙間を誰が埋めるのか、という点だ。BBCの縮小化が「公共サービス放送」(=主要放送局はこのカテゴリーに入り、商業放送でも一定の質や基準、番組を放送することが義務となる)の強い伝統がある英国放送業自体の質の下落にはつながらないのだろうか。米国製の番組ばかりが穴を埋めることになりはしないか。もしそうなったら、英国民は、そしてBBCの名声を誇りにしてきた歴代の英政府はどう思うのか。
まずはBBCの存在基盤となるライセンス料制度がどうなるのか、注目だ。日本の放送市場の動向にも影響を与えるに違いない。
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