「マルク復活、ユーロ崩壊」論、世論の救済反対で現実味

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9月8日の欧州中央銀行(ECB)定例理事会終了後に行われたトリシェ総裁の会見。「ドイツ国内でマルクを復活させるべきと議論している人たちにどう語りかけるか」という記者の質問に、“通貨の番人”は思わず声を荒らげた。

「ユーロ導入後、われわれは物価安定を維持してきた。ドイツのこの13年間のインフレ率は平均で1・55%。これは過去(のマルクの時代)よりもいい数字だ。これに対するお祝いの声を聞きたい」。

最後には「すばらしい質問をありがとう。とても刺激的だった」と締めくくったが、冷静さを失っていたのは明らかだった。東短リサーチの加藤出・取締役チーフエコノミストは「ECBのシュタルク前専務理事の突然の辞任が(いらだちの)背景にあったのだろう」と推測する。

ドイツ出身のシュタルク氏の退任表明はトリシェ総裁の会見翌日の9日。ECBがイタリア、スペイン両国の国債買い入れを始めたのに抗議したものとされる。

ギリシャを発端とする欧州財政危機の伝播阻止へ向けて大胆な施策に打って出たECB。なりふり構わぬ流動性供給策はバランスシート毀損のリスクと背中合わせだ。それに伴い、ユーロの信認が大きく揺らぐのは「原理原則を重視してきたドイツ人には許せないこと」(加藤氏)。

1920年代のワイマール共和政の下で、ハイパーインフレという“悪夢”を経験したため、通貨安定への思いは人一倍だ。他国との微妙な“温度差”に金融市場は敏感。マーケットにはドイツのユーロ離脱への警戒論がくすぶる。

独仏両国の取り組みが欧州危機鎮静化のカギ

ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインのいわゆる「PIIGS」救済をめぐり、域内の不協和音は至る所から聞かれる。フィンランドのカタイネン首相はギリシャに対する追加金融支援に際して、見返りとなる担保差し入れを要求。域内に波紋を広げた。

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