なぜ中国はベトナムに絶対に勝てないのか 日本がアジアで優位に立つカギはここにある

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恥をさらすようだが、私もベトナムでは痛い目にあっている。ベトナムのある有力企業から「マーケティングも含めてわれわれに鉱山開発の指導をしてください」と頼まれ、話に乗ったのである。

「互いに中国に負けないレベルの高い商流をつくろう」と意気投合し、早速、秘密保持契約(NDA)を結んだ。そこから私は日本のユーザーにヒアリングを行いつつ、早々に現地視察を行いたい旨をベトナム側に伝えたのだが、なかなか話が進まない。

しびれを切らしてハノイに飛んだのだが、先方は前回までの話を笑顔で繰り返し、それよりも日本側の情報を教えてくださいと言うのである。

正々堂々は世界では通じない!異質と組んで戦う勇気を

私は、パートナーとなる相手には腹を割って基本的には隠し事をしない主義である。だから日本のユーザーが求める品質規格や市場ニーズなどの重要情報を懇切丁寧に伝えた。

ところが──。三度目にハノイに行くと、私が伝えた情報は「すべて既知のものばかりだった」と言うのである。そんなはずはない。私が直接つかんできた一次情報で、どこを探しても見つからないものばかりだ。

私は、ここでハタと気付いた。つまり、彼らは最初から私のレアな情報を引き出すことが目的で、その情報を自分たちの持っている開発利権にうまく利用したかったのだ。

取るものを取られて、いいようにもて遊ばれる。こんな情けない話が死屍累々ベトナムには散らばっている。こうした話をすると、「それは卑怯ではないか、交渉事は、正々堂々としなければならない」と感じる日本人は少なくないはずだ。

しかし、外交や交渉事は、取るか取られるかの戦いである。戦いにおいて正論ばかり振りかざしていて勝てるのだろうか。否である。下剋上の戦国時代、勝つためには日本人も謀略をめぐらせてきた。生き残りをかけているのだから、当たり前である。

私も大好きであるが、武士道精神は天下泰平の江戸時代になってからのものだ。平時には争いは不要である。そのために卑怯な戦略は悪とされたわけだが、世界を相手にした争い=外交や交渉事においては、まず勝たなければ意味がない(もちろん勝てば何をやってもいいとまでは言わない)。

日本国内のみでの話なら性善説に立っても問題ないかもしれない。だが、一歩外に出たときは2段階、3段階の戦略を持ったほうがいい。世界において、正々堂々はむしろ非常識なのである。

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