つまり、ベトナムは名を捨てて実を取る戦い方を地で行くことにより、小国でありながら大国中国にも負けることなく高度な外交術を駆使してきたのだ。
ベトナムは経済成長著しい国ではあるが、何でもかんでも大国に憧れて真似するような子供じみた振る舞いはしていない。もちろん、尻尾も振らず、言いなりにも決してならない。どの国との付き合いに対しても変に媚こびず、傲慢にもならない。隣国に対しても言うべきことは言い、助けるべきときは助ける。それでいて世界の中できちんと存在感を持っているのである。
では、こうしたベトナムのしたたかさの根底にあるものは何か。何がベトナムという国のアイデンティティーを構築する元になっているのかというと、私は大きく、次の4つの要素になるのではないかと考えている。ベトナムの「4K」と呼んでいるもので、すなわち「交渉上手」「コネ社会」「教育力」「カカア天下」である。
日本のはるか上を行く、ベトナムの交渉力とは?
ベトナムの「4K」について詳細は、発売したばかりの『中国との付き合い方はベトナムに学べ』(SB新書)でも紹介しているが、中でも「交渉力」たるや、日本より一枚も二枚も上手だ。
ベトナムを相手に交渉をしていると交渉術の本質がよく理解できる。彼らは決して自分たちが頭を下げるような交渉をしない。相手が頭を下げるように仕組む。「お願い外交」のような交渉など、論外である。
そもそも、自ら手の内を明かすようなことは絶対にしない。弱みは決して見せない。妥協案を腹の内に持っていても、最後まで口をつぐんでいる。相手が最後の最後に本当に困ってきたところを見計らってタイミングよく妥協案を提示するからこそ意味があるのだ。
要するに、彼らは二段階での交渉がデフォルトなのである。最初は徹底的に相手を追いつめる。しかも、相手が追いつめられているとは気付かないように真綿でじわじわ首を絞め付けるようにである。そうして逃げられないようにして、相手が弱ってきたところで「ここらが相場だろう」と手を打つ。
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