初めて原作を読んだ時の感情を、表現したかった
ーー映画を拝見して、いきなり戦場に投げ込まれたような感覚を覚えました。わかりやすい物語を提示するのではなく、あえて混沌としたものを提示した作品だと感じたのですが。
確かに何も説明はないですからね。しかし、最初からそうしようと思ったわけではありません。最初から最後まで、『野火』という原作の世界に近づきたいということが自分の中で一貫していたことでした。初めて原作を読んだ時に感動したエッセンスをそのままむき出しで映画にしてしまおうと思ったのです。
もしこれが予算の大きな商業映画だとしたら、時代背景などの状況を説明する描写も必要だったと思います。しかしこれは、おカネもない自主映画なので、必要なエッセンスの塊を浴びてもらって、どう感じるかということだけを大事にしました。ある種の巨大な自然を背景にした密室劇というか、不条理劇とでも思って観ていただければいいんじゃないかと思います。ですから、具体的説明はパンフレットを買っていただいて。それに関しては必要以上にわかるように作ってあります。
ーー塚本監督は「観た後はもうげんなりすると思いますが」みたいなことをよくおっしゃっています。口当たりのいい戦争映画ではなく、観客の首根っこを捕まえて「観ろ!」と言っているような気迫を感じさせたのですが。
この状況を描くのに、口当たりのいいことは嫌だなぁとは思っていました。だからヒロイズムを描こうとか、あるいは悲劇に直面し、涙が出てしまうような戦争映画を作るつもりはなかった。本当に美しい自然の中で、なんでこんなにも苦しいことをしなくてはいけないのか。ただそこには非常に即物的な死が待っている。戦場は人間が無になってしまう場所なのだ、ということを描きたかったんです。
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