「物を投げる能力」が変えた人間社会の権力構造 階層制が平坦化した理由はヒトの「肩」にある

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大人である必要さえない。アメリカでは週に一度ほどの割合で、幼児が誤って銃を発射して誰かが撃たれている。

そうした事故のうちには、致命的なものもある。一方、赤ん坊のチンパンジーが誤って大人のチンパンジーを殺すなどという話は馬鹿げている。彼らは、力ずくでしか相手を殺すことができない。

したがって、遠距離武器の発達によって、適者生存というときの「適者」の意味が変化した。体の大きさは、もはや以前ほど重要ではなくなった。

他のどんな大型類人猿よりも、人間では男女の体の大きさの違いが小さいのは、この変化が主要な理由である、と進化生物学者たちは主張してきた。

もし彼らが正しければ、男性は女性よりもたいてい数フィートではなく数インチしか背が高くない一因は、私たちの肩の出来に帰せられることになる〔訳注 1フィートは約30.48センチメートル、1インチは約2.54センチメートル〕

だが、遠距離武器とそのおかげで実現できた大幅な均一化がもたらした最大の変化は、階級制の平坦化であり、チンパンジーの専制政治から狩猟採集民の協力への移行だった。

権力を握っていても安心できない

それでも、私たちは自らを過度に愛くるしい種だなどと考えるべきではない。

人間もチンパンジー同様、権力に引きつけられる。だが、人間がチンパンジーと分岐すると、権力への道も分かれた。

権力を手に入れるために身体的な戦いで相手を殺す必要があるときは、自分の集団の支配的なメンバーに挑むのは危険で、致命的にもなりうる。支配力を得るためには、自らを危険にさらさなければならない。

そのため、権力を握っている者は、ある程度安心できた。なぜなら、彼らは身体的な戦いでは自分が勝つだろうことを、知っている場合が多かったからだ。彼らのほうが大きくて強かった。

だが、遠距離武器が開発されると、リーダー志望者は前より警戒する必要が出てきた。突如、集団でいちばん体格が貧弱なメンバーにさえ脅かされる可能性が生まれたからだ。

潜在的なライバルが木立に隠れ、槍を投げつけてきかねない。寝ている間にライバルに弓で矢を射掛けられたり、完全に隙を衝かれて頭に石を投げつけられたりするかもしれない。

集団の大柄なメンバーが小柄なメンバーを、その意思に反して身体的に支配するのが、急にずっと難しくなった。人間は今や、身体的に強力な者の支配に甘んじる以外の選択肢を獲得したのだ。

(翻訳:柴田裕之)

ブライアン・クラース ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授

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Brian Klaas

ミネソタ州で生まれ育ち、オックスフォード大学で博士号を取得。現在はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの国際政治学の准教授。『アトランティック』誌の寄稿者で、『ワシントン・ポスト』紙の元ウィークリー・コラムニスト。受賞歴のあるポッドキャストPower Corruptsのホストを務めている。個人のホームページはBrianPKlaas.com、Xのアカウントは@BrianKlaas。

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