イラン大統領選で最高指導者が見せたサプライズ 改革派大統領を登場させた最高指導者の本音

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1回目の選挙投票率は約40%で過去最低水準だった。これに危機感を持ったハメネイ師がイラン国民に投票に行くようにと呼び掛けたのは、それが大統領選びだけでなく、法学者統治という現在のイランの統治体制、ハメネイ師という最高指導者への国民支持率の表れであると受け止めていたからであろう。

ハメネイ師は自分が支持されていることを客観的に証明するためにも、投票率は50%以上の民主的な大統領選挙を実施することにこだわった。改革派のペゼシュキアン氏の名前を記入したパフォーマンスは、「最高指導者の心はイラン国民とともにあり、改革派を望む国民と同じ思いを共有している」とアピールするためだったとみる。

最高指導者の本音は?

ホメイニ師の墓廟で勝利宣言を行ったペゼシュキアン氏は、「ハメネイ師の推しがなければ、自分が大統領になるなどありえなかった」と述べた。

それに対しハメネイ師は、ペゼシュキアン新大統領には故ライシ前大統領の路線を引き継ぐようにという声明を出した。改革派の大統領を推しながら、反米強硬派路線を継げというのは何を意味するのか。

アメリカのトランプ前大統領が一方的に破棄して反故にしたが、2015年の核合意を締結させた改革派のザワヒリ元外相は大のアラブ諸国嫌いだった。

嫌悪感を露骨に出して、アラブ湾岸諸国を「テロリスト輸出国」などとかなりきつい言葉で非難しただけでなく、イランの核開発を安全保障上の重大な脅威として心配するサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国を核条約交渉で排除した。そのためイランとアラブ湾岸諸国の関係は悪化し、国交断絶にまで至ってしまった。

ライシ前大統領は中国の仲介で、2016年のテヘランのサウジアラビア大使館爆破事件後に途絶えたイランとサウジアラビアの国交を正常化させた。ライシ大統領時代、中国の仲介で外交のパイプがつながり、話し合いの余地が出てきた。

ハメネイ師の改革派の大統領を推しつつも「ライシ氏の路線を継げ」というのは、ライシ氏が築いた国交正常化や近隣諸国との関係改善・ゼロ問題政策という遺産を大切にしつつ、国民の望む経済問題の解決や若者が望むスカーフ着用ルールやインターネットの規制緩和などの改革をも進めてほしい――。これがハメネイ師の発言の真意だったのではないかと思う。

アビール・アル・サマライ 「ハット研究所」所長

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イラク・バグダッド出身。バグダッドのテクノロジー大学コンピューターサイエンス学部卒業。湾岸戦争後の1991年末に来日。アラブ・イスラム言語文化専門シンクタンク「ハット研究所」所長。中東情勢や中東メディア報道研究、イスラム・中東問題の勉強会、ハラルやムスリム対応のビジネスコンサルティングなどを手掛ける。外務省研修所、慶應義塾大学、学習院大学非常勤講師。NHKアラビア語ラジオ講座出演。

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