日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】

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小幡  もし今後、再び価格が動かない状況に陥ることがあったら、金融政策で変えられますか。

渡辺 それは仮想的な質問でもなんでもなくて、インフレ率が再びゼロやマイナスになる可能性はまだ残っていると思っています。その状況を壊すことは基本的には中央銀行の仕事だし、彼らに頑張ってもらうしかない。

日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです。

小幡 何か緩和の方法を工夫すれば、効く可能性が増すんですか。

現金と銀行預金も含めた「本当のマイナス金利」

渡辺努(わたなべ つとむ)/東京大学大学院経済学研究科教授。専門は物価と金融政策。ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。株式会社ナウキャスト創業者、技術顧問。1959年生まれ。1982〜1999年日本銀行。一橋大学経済研究所教授などを経て、2011年から現職。著書に『物価とは何か』『世界インフレの謎』など(撮影:梅谷秀司)

渡辺 僕はマイナス金利が王道だと思っています。日銀はおそらく繰り返すのは嫌だと思っているでしょうが、失敗をふまえて考えると、今回のマイナス金利は中途半端だったんです。

たとえば現金はマイナス金利ではなかった。銀行預金もマイナス金利にはならなかった。現金や銀行預金も含めて全部マイナスにしていくのが、本当のマイナス金利だと思うんですけれど、異次元緩和ではそこまではやれなかった。

小幡 金利がマイナスになることに人々が違和感を抱くのは、単なる経験則でしょうか。

渡辺 よく例に出すのは、1ドル360円の固定相場制の時代です。円とドルとの相対的地位が安定していたのが崩れると、大変なことになると議論されていました。実際、変動相場制になってみると、生きられない世界になったわけではないですよね。

マネーもまったく同じで、今日の1万円札と明日の1万円札が1対1で交換されているのが現状の仕組みです。それが本当のマイナス金利になったら、今日の1万円が明日は9500円になる、というように、交換比率が変わるだけの話です。

要は円同士の変動相場制で、慣れの問題だと思います。

小幡 マイナス金利というのはお金を借りると、貸したほうが金利を払うわけですから、何か違和感がある。

渡辺 でも、インフレ率を加味した実質金利で考えれば、マイナスになることはいくらでもありえて、過去にも起きています。インフレ率10%の世界では、名目金利が10%より低ければ、実質的にはマイナスです。名目金利がマイナスになってはいけない理由はどこにもないんじゃないかな。

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