日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】

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渡辺 貨幣の金利をゼロより下げるコストが大きいから、インフレ率が下がっても金利をゼロより下げられず、10年以上にわたってデフレが続いたわけです。貨幣にも自由自在にマイナス金利をつけるように制度そのものを取り換えたほうがいいと僕は思う。

そのコストが高いとしても、デフレで価格が動かなくなって、中央銀行が10年間頑張っても全然コントロールできないことのコストのほうが大きいわけです。

小幡 価格が動かないことに対して、マクロの金融政策ではなく、ミクロの行動にアプローチすることはできないんですか。

「賃金は上がるもの」と考え方を変える手段

渡辺 実際に、政府は中小企業と大企業の取引構造に手を入れていますよね。中小企業の価格決定力が弱いので、交渉のテーブルに大企業が出てこないことを摘発したりして、価格メカニズムが個別の事情で歪んでいる部分を直そうとしているわけです。

僕が考えて実際に行われたのは、最低賃金です。将来にかけて引き上げていく道筋を示したほうがいいと経済財政諮問会議で提唱しました。昨年、全国平均で時給1000円台に乗りましたが、岸田首相は昨年8月、「10年間で1500円に持っていく」と表明しました。

小幡 それはどんな影響があるんですか。

渡辺 将来の賃金の期待値を上げるためです。

物価については日銀が、2%目標を標榜してくれている。どの程度、みんなが信用しているかは別にして。賃金のほうがむしろ変わらないという信念が強いので、「上がるもの」だと世の中の考え方を変えていかなければなりません。

最低賃金はよくも悪くも政府が介入できる。全般的に賃金がそのような道筋で上がっていくと人々が予想するようになると、個々の労使交渉にも影響してくるわけです。最低賃金をマクロの政策ツールとして使った例としてはアメリカのニューディールがあります。

小幡 渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね。

2人の白熱したやりとりは2時間に及んだ(撮影:梅谷秀司)

(対談は2024年4月23日実施 構成:黒崎亜弓)

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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渡辺 努 東京大学大学院経済学研究科教授

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わたなべ・つとむ

専門はマクロ経済学(とくに物価と金融政策)。東京大学経済学部卒業、米ハーバード大学Ph.D.(経済学)。日本銀行、一橋大学教授を経て現職。2019年4月から東京大学大学院経済学研究科長。株式会社ナウキャスト創業者、技術顧問。

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